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2004.05.22

資料から古代史の戦争を考える

■ 古代を想像する知的な楽しみ

 日本における戦争は弥生時代に始まったとされている。現在担任している6年生で使っている教科書(教育出版)にも、弥生時代の学習で、戦争を推測させる遺跡や出土品の資料や戦った旨の記述がある。
 ただ、それらはあくまでも「推測」である。今後新たな発見によって真実が変わる可能性もある。(事実、縄文時代末に戦争があったという説もある。)
 そして同時にこのことは、歴史学習を進めていく場合の重要なヒントとなる。
 それは、「子どもたちが資料から真実を推測していく活動を学習に組み入れるとよい」ということである。
 「今日はみんなが考古学者になって、大昔の生活について推理してみよう」と投げかければ、子どもたちものってくる。いわば「古代を想像する知的な楽しみ」を授業の中で味わわせるのである。
むろん、学習活動として単に想像にとどまらせず、その説の正誤について調べることは大切である。同時に戦争の理由を考えさせて、「歴史的なものの見方」を育てたいと考えた。

■ 授業「遺跡から戦争の跡をさがせ」

 吉野ヶ里遺跡には、戦争の始まりを考える素材がいくつもある。
・頭のない人骨
・打ち込まれたやじり
・遺跡の周りにめぐらされた壕
・見張りのための物見櫓・・・等
 これらの写真や想像図は教科書や資料集にも掲載されている。
 これらの資料をベースに次の3段階で授業を構成する。
1 出土品の写真や想像図から、当時の戦争の様子を考える。
2 その説が正しいかどうか文書資料で調べる。
3 戦争の理由を考え、自分なりの考えを持つ。

■ 古代の戦争を想像する

最初に子どもたちに次のように指示する。

「弥生時代から戦争が始まったと言われています。その証拠を写真や図から見つけなさい。戦いの様子でわかる場合には、自分の想像も加えなさい」

 子どもたちからは次のようなものが出てきた。
・銅剣を使って攻撃をした。その頃は、おそらく強力な武器だった。
・人骨に矢がささったあとがある。弓矢を使っていたと思われる。
・首から上のない人骨が発見された。戦いではリーダーの頭をとっていったのではないか。
・物見やぐらがある。ここに登り、敵が来るのを見張っていた。
・壕を作っていた。敵が襲ってきても相手に攻め込まれないようにしていた。
・柵を村の周りに張っていた。敵に備えていた。

 一通り子どもたちの考えが出たところで、それらが正しいかどうか確かめる。子どもたちは、さっそく教科書や資料集・百科事典等の文書資料にあたり、自分たちの説が正しいかどうか調べ発表した。その過程を通じて子どもたちは、その頃の戦争についてイメージ化することができた。

■ 戦争の理由を考え、自分なりの考えを持つ

 次に「縄文時代になかった戦いが、弥生時代になってなぜ行われるようになったのでしょう」と問い、戦争の理由を考えさせる。
 この発問により、子どもたちは縄文時代と弥生時代を今までの知識をもとに比較して考える。

・くにを広くするために、川や土地をもっと必要としたから。
・川を自分たちのものにすると米作りがしやすくなるから。
・自分たちの生活をもっと豊かにしたいから。
・憎しみがあった。
・身分の争いもあったのではないか・・・等。

 縄文時代との対比で考えると、子どもたちが考えたように「お米作り」がその一番の理由である。より豊かな安定した生活のためには、耕地を広げたり水を確保したりする必要性がある。
 この発表過程である子が、「大昔の戦争も同じだ・・・」とつぶやいた。詳しく聞くと、「本で読んだ20世紀の戦争の理由と似ているから」ということである。これは子どもたちの視野を広げる大切な視点となった。
 また、教師からも次のエピソードを伝える。
吉野ヶ里の集落は、弥生時代の終わりには内部に環濠をもつ集落中心部が二か所存在し、いずれにも城柵や設けられ、厳重な防御がされるようになった。いわば「要塞」のようなものである。
 この話から本格的な戦略的な戦いがあったことを子どもたちは感じ取った。
 最後に子どもたちに今日の学習で思ったことを書かせた。

・昔の人々も今の人々も豊かになろうとして争っています。そんなことをするなら、協力して国を高めあっていった方がいいと思います。
・弥生時代から戦争をしていることがわかってびっくりしました。人間は同じ理由で戦争を繰り返しているんだなあと思いました。物見やぐらなども作っていて、弥生時代の人はすごいなあと思います。でもやはり協力することが大切
だと思いました。
・今も昔も戦争の理由は変わらないなんて、今もすごい争いが行われているのではないかなあと思いました。平和な暮らしになっていけばいいなあと思いました。

 資料から歴史の事実を推測し、歴史に対する自分なりの考えを持つ・・・このことが歴史学習に対する興味を高めると感じた授業であった。

MM『日刊・小学教師用ニュースマガジン』連載 私の教材開発物語 第37回より

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