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2004.05.02

 えりも岬に春を呼べ(5年・社会)

■ 「プロジェクトX・えりも岬に春を呼べ」

 NHK「プロジェクトX」を授業に活用したという教師は珍しくないと思う。題材そのものが魅力的なものが多いし、映像も教材としての価値がある。「えりも岬に春を呼べ」もその一つである。
 内容は北海道えりも岬の砂漠と化した大地に、ゼロから木を植え、森を作る物語である。半世紀にわたって繰り広げられた、世界でも例のない壮大な砂漠緑化プロジェクト。さまざまな困難とぶつかりながらも、漁師たちとその家族
は、少しずつ砂漠を森に変えていく。そして、森が広がるにつれ、海は豊かさを取り戻していく。
 この番組を最初に見た時に、5年生社会の森林の学習で、「人の力で緑を取り戻した例」としてぜひ取り上げたいと思った。それぐらいこの番組に共感したのである。

■ 罠に陥らないために

 このような番組を取り上げる場合、自分自身の中で注意をしていることがある。それは「教師の思い入れが強すぎて、子どもたちの学習と離れた一方的な教え込みになってしまう」ということである。自分が得た感動を子どもたちに
も伝えたい。しかし子どもたちに投げかけるものの、教師ほどは共感している様子がない・・・このパターンがそうである。私は何度もこの罠に陥った。
 なぜか。それは授業の組み立てそのものに問題があった。番組で共感する部分が多くたくさん伝えようとする。いきおい、番組を長い時間見せることになる。ところが、小学生を対象としていない番組であるから子どもたちにはわか
りにくい部分も多い。当然子どもたちは理解できない。
 これはゲストティーチャーを教室に招いた場合も同様である。教師が授業をどう組み立てるかという部分を無視して、「番組の垂れ流し」「ゲストティーチャーへの丸投げ」をしたら、子どもたちの学習は効果のないものになってし
まうのである。

■ 授業の組み立て

 そこで今回の授業では次の点を基本として授業の組み立てを考えた。

・番組は主役ではなく、あくまでも脇役としての使い方をする。ただし「名脇役」である。子どもたちにインパクトを与える部分で2ヶ所、理解補助の部分で1ヶ所。合計視聴時間は4分にとどめる。
・北海道森林管理局ホームページに効果的な写真・グラフがあるので、それをもとに「えりも砂漠の様子」「取り組んだ結果」について考えさせる。
・「えりも岬の例から言えることは何か」という発問をし、授業のねらいに迫っていく。

 授業全体は次のような流れとなった。

★「えりも岬に緑を呼べ」(内容に合うように番組名とは違ったタイトルにした)
1 2枚の写真を見比べてえりも岬の緑化の変化について知る
  ・「えりも砂漠」と「緑化された土地」を比較させる。
2 第一課題をつかむ
  「えりも岬ではどのようにして緑を増やしたのか」
3 えりも岬の緑化運動への取り組みを知る
  ・強い風による苦労(番組ビデオ)・海草を取り入れる工夫(番組ビデオ)
  ・実際に取り組んだ人々の声
4 取り組んだ結果、どのようになったか考える
  ・緑化面積と水産物の水揚高のグラフから現在の様子を読み取らせる
  ・番組ビデオで変化を紹介する
5 第二課題をつかむ
  「えりも岬の例から言えることは何か」
  ・社会的なものの見方を深めさせたい。
6 課題についてまとめる
  例「えりも岬では人の手で環境をよみがえらせた。環境を守り育てていくのは自分たち人間である。」
7 自己評価を行い、感想を発表する

■ 番組のよさを感じ、資料から考えた

 実際の授業の様子で特徴的な部分を記す。

・最初にホームページのえりも砂漠の様子をプレゼン・ソフトで子どもたちに提示をした。「どこの様子でしょう?」と聞くと、「アフリカ」「外国の砂漠」という声が出てくる。「これは日本の様子です」と言うと、皆驚いていた。
 もう一枚緑化された写真を提示し、「これはこの砂漠が変化した様子です」と言うと、さらに驚いていた。インパクトのある写真で、子どもたちは、「どうやって緑を増やしたのだろう」という本時の課題をすぐに意識化することがで
きた。

・これは教科書にも資料集にもない内容である。課題をつかんでも、それを調べることは無理である。教師が資料を使ってどんどん教えるべきことである。そのような教師主導のスタイルの授業があってもよい。ここで子どもたちがイ
メージにしくい部分で番組を活用した。「想像を絶する強風→立っていても人が吹き飛ばされそうにしているシーン」、「ゴタと呼ぶ雑海藻を敷き詰める方法で緑を増やす→実際にゴタを敷き詰めているシーン」というように。この部分で映像は説明よりも何倍も明快だった。

・取り組んだ結果については、グラフを読み取らせることによって子どもたちは理解をした。同じグラフでも多様な見方ができるグラフである。友達のグラフの見方から、様々なことを子どもたちは学んだ。集団で学ぶよさである。

・グラフで「緑が増えた」という読み取りはしたものの、その事実はぜひ映像で見せたいと考えていた。番組では大地一面に広がる緑と豊かな昆布が海に広がる様子が美しいBGMと共に映し出されていた。子どもたちの目は釘付けである。映像の効果である。

・「えりも岬の例から言えることは何か」という投げかけは、本時の学習を焦点化させる。「人が失った緑は、人が取り戻すことができる」「緑を増やすには時間がかかる。もっと緑を人間は大切にしなければいけない」といったことが出てきた。このまとめにより、子どもたちは社会的なものの見方を深めることとなる。

■ 改めて感じたこと

 この授業から改めて価値あるテレビ番組を授業で活用することのよさを感じた。やはりプロの作った映像である。迫力がある。これからもどんどん積極的に使っていきたいと感じた。
 ただ、その活用方法は吟味しなければいけないし、授業の組み立てもポイントとなる。その点では、「どう活用するか」という教師自身の考えを明確にしなければいけないと改めて感じた。

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