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2004.07.24

見方・考え方が深まる発展的な学習を 2

■ いざ体験・・・「不思議な『力』がかくされている」

 実際の水墨画体験。場所は広い方がいいと考え2教室分がある視聴覚室で行った。もちろん、室町文化に浸るわけですから、子どもたちは正座である。
 用意するのは習字道具、一人2枚のプラスチックの皿、試し紙、ペットボトルに水を入れる。B4版の画用紙に描かせた。子どもたちに事前に次の点を指示した。

・雪舟の「四季山水図」をお手本にすること
・「四季山水図」にあるのは山、岩、木、家、人といったものである。それらの風景画を描くこと
・濃淡については水の加減でできる

 正座して落ち着いてさっそくスタート。前の時間に水墨画と禅宗との関わりを学んでいただけに、子どもたちも集中して描いていた。
 音という音はほとんど聞こえない。子どもたちはどんどんと画用紙を墨の絵で埋めていく。
 子どもたちにとって難しいのはやはり濃淡である。試し紙を渡して、一回墨を試す子が多かったが、なかなか淡い色が出ず苦労していた。
 それでも30分ぐらいしたら、次々と作品ができてくる。初めての体験だが、上手である。中には濃淡を本格的に使い分けて、「上手」「雪舟みたい」と言われている作品もあったほどである。
 終了後に感想を書かせる。ほとんどの子が「難しかった」「雪舟はすごい」「またやってみたい」と感想を述べていた。この体験は子どもたちにとって強烈だったらしい。「静かな空間で正座し、心を落ち着かせて取り組む」ことが魅力ある時間になった。ある子は日記に次のように書いている。

 今日は本当にいい体験をしたと思いました。
 「いつかまたやってみたい!」・・・そう思っていてもなかなかやることができなくて、ずーっとやらないことが多く、今回の水墨画もそんな感じになるかもしれません。だから、一生の思い出にし、またかいた絵も大切にしまっておきたいです。
 (今日は)雪舟になりきったと思います。心を落ち着かせることができる水墨画には、何かそのようなことを起こす不思議な「力」がかくされているのなあと思いました。
 先生、いい体験をありがとうございました!

■ 体験後深まった「水墨画の見方」

 体験だけでも子どもたちは価値のある学習をできた。さらに、その体験活動を効果的に生かそうと考えた。「水墨画の体験から水墨画の見方を深め、そのすばらしさを感じ取り、伝えたいことをまとめる」ことがねらいである。次のような流れで授業を行った。

1 本時の課題の確認(水墨画で学んだことと伝えたいことをまとめよう)
2 水墨画体験の感想の発表
3 もう一度雪舟の「四季山水図」を見て、体験により見方が変わったことを自覚する。
4 雪舟の生き方について理解を深める。
5 「学んだことと伝えたいこと」をまとめる。

 この中で感心したのが3の水墨画の見方である。「四季山水図」を改めて見て、1回目は気づかなかった次のような見方ができていた。

 ・雪舟は実に細かいところまでかいている ・立体的だ
 ・かげもきれいにぬっている ・石や岩もうすくぬっている 
 ・濃さで遠近もわかる  ・家の中のところまで細かくかいている

 これらは実際に体験をしたから見えてきた部分である。模写をするためには、作品をくわしく見なければいけない。雪舟の作品のすばらしさをその過程で子どもたちは感じることができたのである。
 これに加えて、子どもたちに「四季山水図」の実際の長さを教えた。子どもたちは掛け軸程度の大きさと思っていたようだったが、実際には16m分あるのだ。廊下で16m分、巻尺をのばす。何と2教室分にもなる。
 その作品16m分をパソコンで見せた。(NHK「にんげん日本史」のクリップ教材)次々と変化していく四季の様子。教科書で示された水墨画はそのほんの一部である。その迫力に子どもたちからは、「すごい!」「芸術だ!」と
いう声が自然に出てきた。
 最終的には次のように「学んだことと伝えたいこと」をまとめた。

(例1)水墨画はとても集中しなければ書けない。実際にやろうとしてもむずかしい。水墨画で有名なのは雪舟である。雪舟は中国にわたり、いろいろなことを学んだ。雪舟のかいた四季山水図は16mもあり、よほど集中しないとか
けない。
 水墨画という大事な文化をぼくたちが守り続けることが大切だ。

(例2)水墨画は一度かくと見方が変わるし、心を静めることもできるのである。水墨画が今も伝わっているのは、水墨画は他の絵とちがうようなことを味わえるからだ。雪舟は中国まで行って水墨画のよさを知ったのである。水墨
画のよさを知り、これからも受け継がれてほしいと感じた。

■ 学期に1単元は、発展的な学習を

 私は、「歴史を学ぶ目的の一つは、自分の国の歴史について語れるようになること、日本のよさについて語れるようになること」と考えている。
 今回の「水墨画に挑戦しよう!」の学習で子どもたちは、水墨画の知識やよさを語れるようになったと考える。これは体験学習の「ビフォー・アフター」が充実した結果だと思う。
 ただ、このような学習は時間的には厳しい。ただ、子どもたちの意欲的な学習ぶりから、学期に1単元は発展的な学習を行いたいものだと感じた。

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