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2006.01.23

雪をプラスのエネルギーに

小学メールマガジンの連載「私の教材開発物語」に執筆したものである。昨年、雑誌に雪エネルギーについて書いたが、内容を変えてメールマガジンに改めて執筆をした。

■ 雪国の人にとっての雪

 今年は連日のように大雪のことがニュースになる。
 確かに今年は尋常ではない。私の住む岩手でも年末年始とよく雪が降り、雪かきに追われた。冬休みの間は子どもたちに被害はなかったが、これから雪で狭くなった登下校での安全が心配である。
 このような状況は、まさに「雪害」である。

■ 雪をエネルギーにする

 それに対して「利雪」という言葉がある。雪を利用して産業や生活に役立てることだ。
 昨年の8月にその利雪施設を見学する機会があった。北海道赤井川村の雪氷室貯蔵施設(HIMUROS)である。
 概略を説明する。
 この農業倉庫では雪を冷熱源としている。赤井川村は冬にかなりの量の雪が降る。それを生かしたものである。その倉庫の中に入ると、雪氷庫に雪の塊があった。かなりの高さである。5~6mぐらいはあるだろう。聞けば春先の雪を300t以上も貯蔵しているという。そこから出る冷気で夏でも5度以下に保たれていた。施設を作るための初期費用は高価なものの、日々のコストは電気に比べたら格安(およそ6分の1ぐらい)というメリットがある。
 この環境の中でトマト、ブロッコリー、メロン等が貯蔵され、鮮度が保たれたまま出荷ができるようになったということであった。
 この見学で一番強く感じたのは人間の知恵である。雪国の人にとって、冬は大変な季節に違いない。今年のような大雪の年などは、まさに命がけで作業をしなければいけないこともあるだろう。もちろん、雪が降るからできることもある。スキーなどのスポーツはその典型であるだろう。
 その雪のエネルギーを産業に役立てる。その知恵に感心したのである。同時に、「これはぜひ授業をしたい」と考えた。

■ 授業「雪は大切なエネルギー」(小学校5年生対象・2時間)

★1時間目・・・雪のエネルギーに驚く
1 貯蔵施設と保管されているトマトの写真(取材の時に撮影をしたもの)を示し、夏の低温貯蔵の写真であること を説明する。
2 何を使って冷やしているのか予想させ、話し合わせる。
3 答えが雪エネルギーであることを教え、施設の様子を、図を使って説明をする。
4 このような雪エネルギーを使った施設が他にもある(住宅冷房、実験室等)を伝える。
5 感想を発表させる。

 ここでおもしろかったのは2の予想である。子どもたちは圧倒的に「倉庫自体が巨大な冷蔵庫になっている」と考えた。「違うしくみで冷やしています」と答えたら、子どもたちから様々な意見が出てきた。

「ずっと扇風機を回していると思います」
「でも、扇風機だけならそんなに低温にはならないと思います」
「北海道の写真だから、きっと雪を使っているのではないかと思います」
「えっ、夏に雪は解けるから無理です」
「寒い時期から低温にしておけば雪は解けないと思う」
「写真には金網がある。そこに雪を置いて空気が冷えて倉庫を冷やしていると思う」
「温度を考えたら雪しかない」

 このように話し合いの流れで雪派が多数を占めてきた。しかし、一部の子はまだ半信半疑である。「そんなに雪の力はすごいのか」という疑問である。
 ここで実際に「雪・氷室システム」という仕組みを説明する。「雪も電気と同じようにエネルギーになること」「春先に入れた雪でずっと秋まで低温が保たれること」「このような倉庫だけではなく、家庭の冷房にも使われているこ
と」等を話したら、子どもたちは感心をしていた。

★2時間目・・・雪エネルギーを使うよさを考えた
1 雪氷室貯蔵施設で雪エネルギーを使うよさについて考える。
2 雪氷室貯蔵施設は経済的な負担な大きいという事実を示し、ゆさぶる。
3 「費用がかかっても、このような施設を作るのはなぜか」と問い、雪エネルギーを使うよさについて再度深める。
4 感想を発表させる。

 子どもたちは今までの様々な学習で環境を守っていくことの大切さを学んでいる。この「雪エネルギーを使うよさ」についても、「自然を生かす」「電気をあまり使わないので環境にやさしい」というように気づいていった。
 しかし、このような「よさ」だけに触れて学習を終わりにしてしまうのは、現実的ではない。新たに施設を作るには多くの費用がかかる。また、その後の運営コストが安くても、最終的にかかるトータルコストは雪冷房の方が少し割高になるというデータもある。
 このような資料を示すと、子どもたちには「では、なぜ雪エネルギーを使う施設を作るのだろう」という疑問を持つ子も出てくる。
 そこで改めて「費用がかかっても、このような施設を作るのはなぜか」と聞いた。
 子どもたちからは「やはり環境のためになる」「雪エネルギーでできたという野菜でPRになる」といった考え方が子どもたちから出てきた。確かに、運営側では雪エネルギーによるPR効果もメリットと考えているようである。こ
れもまた社会の一面である。
 これらに、「利雪による地域の活性化」という視点を教師から付け加えた。

■ 「雪たんけん館」にアクセスを

 北海道の「雪プロジェクト」の研修会に参加したことが、この見学のきっかけであった。この「雪プロジェクト」では、「雪たんけん館」というホームページを開設している。

 子どもたちが雪について調べる時に役立つのはもちろんだが、教師が教材用として活用したい写真も揃っている。ぜひアクセスしてほしい。
 3学期最初の社会の単元で沖縄と北海道のくらしについて学習をする(5年生)。もちろん、この「雪たんけん館」のホームページをフルに活用するつもりである。

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Comments

コメント、ありがとうございます。メーリングリストで新保先生の学校がNHKのテレビで紹介されることを知っておりました。どのような内容なのか、大変興味があります。楽しみにしております。

Posted by: サトマサ | 2006.01.25 05:32

雪プロの新保です
佐藤先生、分かりやすい実践報告大変勉強になりました。無駄のない、そして軸のぶれないすばらしい実践ですね。「雪たんけん館」ご利用にも本当に感謝です!私は今年は、学校・PTAでいろいろやっております。2月にはご近所の底力に本校PTAが出演予定。放送日が決まったらご案内させてください。

Posted by: 新保 | 2006.01.24 23:16

コメント、ありがとうございます。これらは昨年夏に行った実践です。今度は本番の冬。明日から社会も沖縄と北海道の学習に入ります。どう展開していくか、どう雪たんけん館を利用していくか、楽しみながら考えています。

Posted by: サトマサ | 2006.01.23 22:48

札幌の割石です。雪探検館利用ありがとうございます。2時間という枠の中での授業案大変参考になりました。1時間目は、雪プロ写真企画の参考になります。ありがとうございました。

Posted by: 割石 | 2006.01.23 22:32

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