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2016.05.29

アメリカ研修記10

【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です】

2 オレゴン州の教育(1993年の報告)

(1) オレゴン州について

 オレゴン州は、アメリカ合衆国の北西部に位置している。州の面積の半分がダグラスモミ等の森林で覆われており、その他にも海岸あり、平原ありとたいへん自然に恵まれている。年平均気温は12度と気温は温和であり、草木は1年中緑色を保っている。

 州の経済は、林業・農業・観光業といった豊かな自然環境に依存した産業を中心に発展してきた。最近は、海外からの投資が活発となり、ハイテク産業を中心とした製造業が成長し、産業構造の多角化が図られてきた。オレゴン州への投資の魅力としては、豊富で低廉なエネルギーと水、質の高い労働力、環太平洋諸国との貿易の玄関口、州政府をはじめとする行政機関等の積極的な企業誘致製作等が挙げられる。日本との貿易もさかんであり、穀物・木材・パルプ等を輸出し、自動車およびその部品・電気機器等を輸入している。

 オレゴン州の日本への関心はきわめて高く、各種団体による日本関係の行事、フェスティバル等がよく開催されている。また、日本語教育の面では質量とも、国内では有数のレベルである。

(2) オレゴン州の教育の現状

 先に述べたように、アメリカ合衆国の具体的な学校運営は、地区あるいは学校そのものに委ねられている。オレゴン州も例外ではなく、同じ州内の学校でありながらも、一日の時間数、単位数が異なる。つまり、地区の実態に合わせた教育が可能となるわけである。ただ、我々が見た範囲においてはオレゴン州は二つの特徴を持っているように思われた。

 第1は、柔軟性に富む教育を行っているということである。

 中学校は高校では、数多くの選択教科が用意されており、生徒はその中から自分の能力や興味に応じて自由にカリキュラムを組めるシステムの学校が多い。また、同じ教科でも何種類かのレベルの違った授業があるので、能力に応じた教育が実践されている。小学校においても、専科の時間を除いては、教科の授業時間は教師の裁量によって決めることができる。だから、教える内容によって弾力的な運用が可能となるわけである。

 この柔軟性は、公立初等・中等教育だけにとどまらない。一般社会人でも、コミュニティカレッジに通って単位を取得している人も数多くいる。特に、ポーランド・コミュニティカレッジのシルベニア校の学生の平均年齢は32才という。学びたいときに学べるシステムであり、生涯教育が浸透していることの証左であろう。このほかにも、日本にはないシステムとして、ホームスクーリングの制度がある。これは、親が自分の子に学校教育と同じ内容の教育を施すものである。州全体の1%がこの制度を利用しているという。このような権利を認めているのも大きな特色である。

 第2の特徴としてあげられるのは、社会的弱者に対して教育を受ける権利を保障しているということである。

 たとえば障害児教育。障害を持った子どもは、就学年令に達すれば、障害の程度に関わらず、その学区の小学校に入学することができる。そして学校は、その子どもが学習できる環境整備を図る義務がある。地区で持っているスクールバスの中には、車いすのまま乗降できる装置を備えているものもある。社会全体が人権の保障に理解を示しているこの国ならではのシステムである。

 また、ここ数年増加しつつある海外からの移民者に対する教育制度も整えられている。その子たちは英語が話せないので、ESL(English as Second Language)と言われる英語を特別に教える教育が実践されている。様々な国から移民してきた子たちなので、ESLの教師の他に他国語のアシスタントがつく場合もあるという。

 そのほかにも、クリスティースクールという情緒障害児を扱う学級もあった。この学校は、アルコールや麻薬などのために家庭が崩壊したり、家族から性的、肉体的、精神的虐待を受けて情緒障害になった子たちが寮生活をしながら学んでいた。アメリカ社会特有の背景がそこにはあるが、そのような子たちにも援助の手をさしのべているわけである。

(3) 地区ごとに特色のある教育

 先に述べたように、アメリカ合衆国では、同じ州内の同じ地区の学校でも、その様子は異なっていることが多い。
 ただ共通して言えることは、自分の地区の実態に合わせた教育を行っているということである。
たとえば、ポートランド市リッチモンド小学校の日本語教育を我々は参観した。世界でも難しい言語とされている日本語をなぜ教えるのかという問いに対する答えは、「最初は他の小学校でスペイン語教育を始めた。そうしたら、『次は日本語教育を』と親が希望するようになったからだ」というものだった。このようなところにも、地区の特色を生かしていく姿勢が伺える。

3 21世紀の教育に向けて

 州では、2010年までという長期的展望にたった教育改革を、1991年からスタートさせた。その改革の内容には、現在180日前後の授業日数を段階的に増やし、最終的には220日にすること、自己学習力・思考力・表現力を高めること、コンピュータ教育をさらに充実させること等が盛り込まれていた。州教育でも、その改革を遂行するために、各学校で訪問しているが、実際の現場では、古い型の教育と新しい型のものが混在しているとのことであった。

 ただ、この教育改革にも大きな問題が一つある。州の教育予算が、十分ではないということである。財源確保のために消費税導入の投票がホームスティー終了後にあったが、75%の反対で導入は見送られた。その改革も予算の規模が縮小されたら、小さな形でやらざるを得ないという話であった。

 しかしながら、限られた予算の中で、各地区の特色を生かしながら教育改革を進めようとしているオレゴン州の教育から学ぶ点は多かった。日本も新指導要領の全面実施にあたり、新しい教育を模索中である。
 今後の我々の教育実践の参考にしたい。

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