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2016.05.07

アメリカ研修記3

【旧HP移行のためのリバイバル掲載です】

★ アメリカの教師も忙しい


  朝7時30分~    出勤、授業の準備
   8時45分~    授業(105分)
  10時30分~    15分の休憩
  10時45分~    授業(90分)
  12時15分~    昼食
  12時45分~    授業(75分)
  2時~         休憩(15分)
  2時15分~     授業(60分)
  3時15分~     教材研究・ミーティング
  5時          退勤

 これは、アインソワ―ズ小学校5年生担任、マーチン先生のある一日の勤務の様子である。
 勝手な想像だが、アメリカに行く前は、何となく向こうの小学校はのんびりしているだろうと思っていた。
 確かに、出勤時刻と退勤時刻は、我々の定められている時刻とそんなに変わらない。人によっては、ずいぶん早く帰るものだと考えるかもしれない。

 しかし、授業の実質時間を合計してほしい。
 全部で何と5時間30分なのである。
 我々は6時間授業の日でも、45分×6=270分=4時間30分である。
つまり、1時間も多く授業をしているわけである。しかも、この日程は月曜日から金曜日まで不動である。

 さらに休憩(ブレイク)の時間も教師は休めない。子供たちは、キックベースボール等で遊ぶのだが、教師も一緒に外に出て子供たちの様子を見ていなければならない。
 事故がないか、危険なことがないか見るためである。だから、本当の休みは昼食時間だけである。

 アインソワ―ズ小学校では、教師と子供は別々に食事をとる。
 子供たちは食堂で、好きな友達とワイワイとにぎやかに昼食をとる。
 教師たちは教師たちだけで別の部屋でとる。この時間がお互いの情報交換の場であるらしい。
 なお、子供たちには昼食担当の先生がいて、子どもたちに声がけをしている。

 勤務時間は午前8時から午後4時までだが、マーチン先生はその前後合計1時間半を超過勤務している。
 アメリカの教師は超過勤務をしても、お金は支払われないという。それでも残らざるを得ない。
 日本の教師は忙しいという声をよく聞く。それは、アメリカの教師も同様である。
 いや、先の実態を考えると、アメリカの教師の方がハードかもしれない。

 この忙しさは学校がある時だけではない。
 「先生は、単元全体を見通した計画で教えているようですが、いつ考えるのですか。」と質問したことがある。
 「私たちは、新学期が始まる前は、バカンスです。その間に、図書館に行って調べごとをしたり、授業の構想を考えたりします。この間は給料は支払
われませんが、教師たちはそのように新年度の構想を練ったり、講習を受けたりします。それらは、自分の人生を充実させてくれるのです。」
 この話に「プロの教師」という言葉を思い浮かべた。

★ 親が気軽に学校へ

 小学校に行っている4週間に、親御さんが学校に来ない日はなかった。毎日、どこかの学級で、何人かの親御さんが来ていた。私の参観している授業でも時折見かけた。
 別に授業参観の日があったからだけではない。また、PTAの行事の話し合いがあるとかというわけでもない。
 では、何をしに学校に来ているのか。それは、教師のする授業の手伝いをしに来ているのである。「スクールボランティア」あるいは「ビジター」というシステムだそうである。

 例1 小学校併設の幼稚園の授業

 今日は近くの消防署の見学。交通量の激しいところを歩いていかなければならない。先生は一人。子どもは20人ほど。
 一人の親御さんが手伝いに来てくれる。先生が先頭を歩いて、親御さんは一番後ろでみんなを見てくれる。なるほど、これならば子どもたちを安全に消防署に連れて行くことができる。
 先生に、「親御さんたちは熱心ですね。仕事を休んでくる人もいるのですか?」と聞いたら、「時には仕事を休んでくる人もいます。彼らは、何か学校でハプニングが起こることより、自分が1時間の休みをとる方がベターだと考えています。」とのことであった。
 
 例2 小麦粉での地図作り

 5年生の社会科の授業。ダンボールにアメリカ合衆国の地図を書き、その上に小麦粉を水で練って重ねていって、高低のある立体的な地図を作るという授業である。
 この作業の問題点は小麦粉を練るのに時間がかかるということである。そこでビジターの二人が来てくれた。先生と合わせて3人で練ると大量の小麦粉ができる。1時間ほどで、地図は完成である。このような作業学習では、準備を手伝ってくれる人は多い方がいい。
 先生に、「どのようにしてビジターを選んでいるんですか」と聞いたら、事前にプリントを配布して希望者をとるとのことである。もし、誰も希望しない場合は、それはそれで仕方がないという。つまり、強制ではないのである。

 このビジター制度の利点を考えてみた。

 ★ 子どもたちの学習が効率的に行われる。
 ★ 親が我が子の授業の様子を気軽に見ることができる
 ★ 子どもたちにとっては、友達の親を知る機会であり、反対に親は子どもの友達を知ることができる

 子どもたちも親が学校に来るのが自然と思っている。
 そして親が帰る時には、皆が盛大な拍手で見送る。まさにヒーローである。
 このシステムが実際に日本でそのまま行うことは、困難であろう。そもそも、仕事をそんなに簡単に休むわけにはいかないと思われる。
 ただ、考えたいのは学校が親に、このような自然な、そして好ましい雰囲気の中で開かれているということである。

★ コンピュータと星条旗

 アインソワ―ズ小学校のどの教室にもあったものが、コンピュータと星条旗である。コンピュータは各クラスに一台ずつ。ワープロの学習は、ノ―トワープロみたいなものが各学級に人数分あって、「ラップトップ」の時間に練習をする。

 昔からタイプライターがあったせいか、アメリカでは文字を書くことはあまり重視していないように感じた。そして、子供たちの字も正直言って読みにくかった。比較すると、日本の中学生の英語の文字は、上手な部類に入るのではないだろうか。

 さて、コンピュータを何に使うのか。私は教師が何かのデータを探したり、表計算をするのかと思っていた。
 ところが使うのは主に子供たち。しかも何に使うのかというと、「ゲーム」なのである。
 早く学習が終わった子がボーナスとしてゲームをする時もあるし、休み時間、外が雨で遊べない時にゲームをする時もある。学習ゲームみたいなものもあって、クロスワードを子供が作って、それがみんなの宿題になる時もある。こんなに気軽にコンピュータと接しているわけであるから、中学校では抵抗なくコンピュータ教育ができるのであろう。

 星条旗は教室前方に掲げられている。ふだんは、特に意識することはない。しかし、時々、5年担任のマーチン先生はアメリカ国歌を歌わせた。星条旗はその時のシンボルになっている。
 子供たちのアメリカ国歌を歌う時の様子は実に誇らしげである。しかも、子供たちが大好きな局でもある。遊びながら、何やら鼻歌を歌っているなあと思っていたらそれがアメリカ国歌だったりする。
 しかも、その子だけではない。他の子に、「今、どんな歌が好き?」と聞いたら、何かアニメの主題歌が出てくるのかと思ったら、何とアメリカ国歌という。

 「自分の国を心から愛している」・・・そんな様子が伺えるような話である。

■付記  これは1993年の時の話である。この後、パソコン事情は激変した。おそらくアインソワ―ズ小学校のパソコン事情もかなり変化したことであろう。

★ スペイン語の授業

 アインソワ―ズ小学校の特色は、スペイン語の授業があるということである。
しかも幼稚園からである。これは、ポートランド市内でも一校だけだそうである。
 外国語を小学校で教えている学校はもう一校あり、そこでは何と日本語を教えている。ホームステイ終了後に、そのリッチモンド小学校に行ったが、学習している子どもたちの発言の見事さには驚かされた。

 さて、アインソワ―ズ小学校でスペイン語を教えているといっても、すべての学級で教えているわけではない。
 各学年4クラスずつあるが、そのうち1~2学級である。
 ただ、私が驚いたのは、小学校5年生のスペイン語の授業である。スペイン語そのものに関する授業はほとんどない。なんと、スペイン語を使って、算数や理科、美術をするのである。当然のことながら、母国語の英語は一切使わない。
 日本で言えば、小学5年生の算数が教科書も先生も英語を使って教わるというようなものである。
 「果たして、子供達は授業がわかるのだろうか。」と思ってみていると、ちゃんと算数の問題を解いているではないか!しかも、教師の質問にもちゃんとスペイン語で答えている。これには驚いた。

 子供たちはスペイン語を勉強してわずか6年目。ふつうの授業で話す教師の言葉を理解して、そして自分の伝えたいことをスペイン語で表現している。
 私は中学校1年生から大学1年生までの7年間、英語を勉強した。高校受験や大学受験のためにそれなりの学習も積んだ。
 しかし、残念ながらアインソワ―ズ小学校教師の英語の授業は、部分的にしか理解できない。ましてや、質問されたら「アイ・ドント・ノウ」としか言えないであろう。

 この差はいったい何であろうか。
 私は日本とアメリカ合衆国の教育の違いを端的に表していると思う。もっとも、最近の日本の英語教育はだいぶ変化しているが・・・。(※この記事は1993年)

 さて、英語の授業を理解できない私が、スペイン語の授業を理解できるわけがない。その姿を見かねたのか、ある女の子が「これ、貸すよ」と言ってくれた。
 何だろうと思ったら、ポケット自動翻訳機。スペイン語を英語に変えてくれる。その英語を私は辞書で調べて、ようやく授業を理解できた。
 そんな形で授業を見させてもらった。ありがたいものを貸してもらったものである。

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