私の教材開発物語第5回・第6回
【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です】
連載 私の教材開発物語 第5回
「ちょっとした教材開発 『5分間話』」
■5分間というのはちょっとした一まとまりの話が可能な時間である。
昨年度から、この5分間にこだわった話の教材開発を始めている。朝の会が早くおわった時や授業が早く終わった時に行う。場合によっては、「その日」にしかできない話もある。そんな時には、意図的に5分間を作り、子供たちに話す。
内容は、雑多である。ただ、テーマは一貫している。「日本のよさ」や「伝統行事」といったものである。
■そのような話は、以前から子供たちにしたいと考えていた。
しかし、悲しいかな、自分には子供たちに語ることができるネタをそれほど持ち合わせていなかった。
たとえば、「明日は七夕です」とテレビのニュースでやっているのを見ても、子供たちが知っている程度の話しか知らなかった。
これでは、子供たちにとっては新鮮味がない。
市立図書館等に行って本を借り、それをもとに話を考えるというのなら可能であるが、「わずか5分間程度のために」と考えたら、その労力はずいぶん無駄に思われた。
■しかし、インターネットの出現で事情は変わった。
明日、子供たちに何か話をしたい。季節物がいいな・・・・。
検索用サイトにキーワードを入れると、いくつも興味をそそるサイトが出てくる。
たとえば、「中秋の名月」。これは、基本的な説明にいいサイトだ。
こちらはクイズにしたら面白そうだ。そんなふうに、どんどん頭が働く。5分間話といえども、ちょっとした教材開発である。
以前なら市立図書館(車で10分ほど)を往復する時間で、必要な情報が手に入る。
もちろん、信頼した情報を得るためには、いくつかのサイトをあたることは当然であるが・・・。
■ そのような教材研究で、昨年(2000年)の9月、子供たちに「中秋の名月」で話をした。以下、その記録である。
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★今日は、何の日ですか。
知らない子の方が多いが、何人かの子は、「十五夜」というように知っていた。朝のニュ―スで見たという答えが多い。
★ そうです。今日は十五夜です。「中秋の名月」とも言われています。
この行事は、中国で始まり、今から1000年ぐらい前に日本に伝わってきました。
実は、この中秋の名月には、別の名前がついています。
□名月(板書)と言われています。□には食べ物の名前が入ります。
何だと思いますか。
「栗」「団子」「りんご」「なし」といったように、十五夜に関係のある食べ物や秋の味覚が出てくる。
★ 答えは「芋名月」です。秋は食べ物が実る季節です。その食べ物を誰よりも早く、偉大なる月にささげるためにお供えをするのがこの十五夜なのです。
では、芋の他にどんなものをお供えしますか。
経験のある子の方が今は少ないかもしれない。しかし、知識として絵を見ているためか、子供たちからは、「団子」「柿」「栗」「枝豆」「ススキ」「お酒」とすぐに出てきた。
★ そうですね。実はススキと団子の数は決まっています。いくつですか。
これは十五とすぐに出てきた。十五夜からの連想である。「正解」と大きな声で言う。
★ 日本では昔からこのようにお供えをして、お月見をすることが行われ てきました。今から200~300年ぐらい前の江戸時代は、一回だけではなく、3回もしていたそうです。
俳句にこのお月様のことを詠む人もいました。
「名月や池をめぐりて夜もすがら」(松尾芭蕉) というようにです。
ちなみに15日ではないのになぜ十五夜と疑問を持っている子もいるかも知れない。そう言う子には、旧暦の8月15日ということを教え、太陰暦と太陽暦の話をしてもよいであろう。
★ 使い終わったススキは捨てない地方もあるそうです。庭や門や田んぼに刺すそうです。何のためにそうすると思いますか。
「どろぼうを防ぐ」「縁起をかつぐ」「もったいない」「魔よけ」といった答えが出てきた。
★ 答えは魔よけです。イネがススキのように丈夫に育つようにと願いを込めたのです。
私たちの祖先は、実りの秋に感謝をして、食べ物をお供えしてお月見を楽しんできました。今日は昔の人のようにお月見をしてみませんか。
ちなみに、この反応は5年生のものである。
今、お供えをして月見をする家は本当に少ないようである。今回話した内容は、「初めて知ったことばかりだった」という反応が多かった。
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■ このような5分間話のネタをいかに自分のものにするか。
今年度は、月に2~3本のペースでホームページに掲載を始めた。
「お花見の由来とその歴史」「異国の孤児に捧げる愛」「小学校時代の思い出はランドセルと共に」といったテーマで今まで書いている。
月に2~3本でも、1年間継続をすれば30本程度の「5分間話」が自分の財産となる。自分の知識も増える。
知の世界が広がることは、自分にとっても 大きな楽しみである。
「5分間話」のための「ちょっとした教材開発」は、子供たちのためになると共に、私個人のためにもなるものなのである。
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連載 私の教材開発物語 第6回
「メディアリテラシーの視点を深める」
■NHKテレビ教育番組「体験!メディアのABC」(2001年の原稿)
「体験!メディアのABC」というテレビ番組をご存知だろうか。小学校5・6年生向けの、初めての本格的なメディアリテラシー教育番組である。メディアリテラシー教育となると、教材の準備が大変であった。しかし、この番組の登場により、その大変さは大幅に解消される。それぐらい画期的な番組と私は思っている。
今年度、この番組の実践協力員になった。番組を活用して、実際に授業を実践し、その報告を行うのである。
私は一回目の「映像の合成」を担当した。4時間で合成写真を体験するというものであった。
この学習での子供たちの意欲は相当のものであった。授業後でも合成写真を家庭学習ノートに貼りつけてくるほどであった。
■ テレビの合成映像で教材開発できないか?
先の合成写真の授業というのは、合成写真を作成するだけではない。作成した上でメディアリテラシー的な視点を育てることをねらいとしている。
子供たちの意欲ぶりを見て、ふと頭にひらめいたことがあった。「合成写真」だけではなく、「テレビの合成映像」も活用して、さらにメディアリテラシー的な視点を深めることができないかと。
一つの小単元は終わっているが、それにプラスアルファとして、追加の授業を行ってみたいと考えたわけである。
テレビの合成映像は子供たちにとってはおなじみである。しかしながら、ふだんは何げなく見ているに過ぎない。そこにスポットを当てるわけである。
■ 二つのコマーシャルを比較させる
テレビの合成映像として目をつけたのはテレビコマーシャルである。子供たちが実際に見ている可能性が高い。しかも、おもしろい内容のものが多い。さらには一本が短く15秒のものが多い。教材としてうってつけである。
「子供たちに人気のある合成映像のコマーシャルを見せ、それを分析させ、その効果を考える」……そんな授業を最初は考えた。
しかし、それではどうも深まりがない。子供たちの食いつきもそれほどではないと予想できた。どうしたらいいか。
そこで考えたのが、「2つの商品(同種類)の合成映像コマーシャルを比較する」ということである。
商品はドリンク剤。一つのドリンク剤のコマーシャルは、合成映像で小さくなった外国人が、サラリーマンとコミカルな会話をするというもの。もう一つのドリンク剤のコマーシャルは、元日本代表のサッカー選手が燃えているボールを蹴る(合成映像)というもの。暗い映像と独特の歌が特徴的である。
「同じドリンク剤なのに、どうしてこんなに雰囲気が違うのか」
「合成映像を活用して、それぞれどんなイメージを出そうとしているのか。」
「何のために、このような合成映像を使ったコマーシャルを作ったのか。」
こんな視点から、子供達のメディアリテラシー的な視野を深めることができるのではないか。そう考えた。
■ 授業の様子
実際の授業は次のような流れであった。
★単元名「合成映像CMの秘密をさぐろう!」
★授業のねらい CMの分析を通して、合成映像他の効果について考え、CMに対する見方を深めることができる。
★本時の流れ
1 子供たちに人気CMについて発表を聞く
・ CM人気アンケート結果を発表する。合わせて、合成映像が使われているCMについて確認をする。
・ そのCMについて、CM観察日記を書いている子の日記を紹介する。
2 二つのCMについて、分析をする
・合成映像だけではなく、その他の工夫について考えさせる。
★1本目のCM
人気NO.1のドリンク剤のCM。小さい人がいて、サラリーマンの人と会話をするもの。シリーズ物となっている。
「思ったこと、気付いたことは何ですか。」
・ どうしてあんなに小さくなるのか
・ どうやったら小さくなるのか不思議
・ なんで普通の人と小さい人を組み合わせているのだろう
・ 人を小さくするのはいい工夫
・ だれが見ても合成映像ということがわかる
・ みんなが見たくなるように工夫している
★2本目のCM
同じくドリンク剤のCM。独特の音楽で有名サッカー選手が炎のついているボールをけるもの。
「思ったこと、気付いたことは何ですか。」
・ なぜボールが燃えているのか
・ 曲がとてもおもしろい
・ コマーシャルの商品と関係がない
・ おりみたいなものをボールで破るのがおもしろい(合成)
3 CMで合成映像等の工夫を使う効果について考える
「合成映像だからできることは何ですか」
「それはどんな効果がありますか」
「これらはどんな感じの商品だと思いましたか」
といった発問で深めた。
ちなみに、どちらも同じ種類の商品。なのに、こんなにCMのイメージが違う。そのことを子供たちは興味を持って発言していた。
4 CM制作者の意図について考える
「何のためにこんなコマーシャルを作っているのでしょうか」
・ おもしろくて、みんなに噂されてできるだけ、多くの商品を買ってもらうため。
・みんなに注目してもらうため
・ 商品を広めるため
・ 流行をつくるため
5 授業の感想を発表して授業を終える。
■ 今度は発信型でメディアリテラシー授業を
この授業で子供たちは、次のような感想を持った。
「合成映像は、私たちがひきつけられつい注目してしまうものばかりだなあと思いました。それに私たちを楽しませてくれる事も分かりました。」
「合成映像は、商品を買ってもらうために作っていることがわかった。そしておもしろい。」
「合成映像は商品がうれるようにという願いが込められいるんだなあと思ったし、同じのみものでもかっこいいし、おもしろいし、いろいろ個性があるんだなあと思いました。」
子供たちの合成映像の見方が深まったことがわかる。
現在は、分析するだけではない「発信型」のメディアリテラシーの教材開発を構想中である。実際に自分が発信する立場に立つことによって、メディアリテラシーの見方がより深まると思われるからである。
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