私の教材開発物語第3回・第4回
【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です】
連載 私の教材開発物語 第3回(2001・5)
「地域の『元気』を探す ~イワガキ養殖の教材化~」
■大いなる楽しみ・教材開発のスタート
5年生社会の水産業の単元。
我が町宮古を素材にできる単元である。
「港の様子」「働いている人々の様子」「宮古の水産業の現状」といったように、素材は一通りある。
「きっといろいろなおもしろい事実と出会うであろう」と期待をこめて単元に入る3週間ほど前から、下調べを始める。これが、私にとって大いなる楽しみである。
調べることによって、新しい発見がある。自分の知識も広がる。実際にいろいろな人と出会って、その人から感動を分けてもらうことができる・・・・今までの教材研究でそのような経験を繰り返してきた。
その感動が次回の教材開発への意欲につながる。
この水産業の時の教材開発もそんなことを期待して、行動を始めた。
まずは、入手できる資料で調べる。漁協のパンフレット、宮古市の資料、インターネット資料と簡単に入手できるものから始める。以前からとっておいたものもある。市の広報紙である。「その日」に備えていろいろとストックはしている。とにかく、いろいろと目を通してみた。
しかし、調べれば調べるほど、宮古の水産業の現状は厳しいということがわかった。
漁獲高の減少、そして働く人の減少。あまり景気のいい話はない。
そもそも市全体も元気がない。進む一方の過疎、水産関連の工場の倒産も耳にしている。
初めて宮古に来て2年あまりの時のことであったが、水産業業界の厳しさを資料から改めて感じた。
「この現状は現状である程度、教えなければいけないであろう。」と思いつつ、「でも、それだけで終わってしまっては、子供たちは『宮古の未来は暗い』と思うだろう」と考えた。
地元宮古の水産業で誇れるものはないか。
宮古の水産業のために、工夫して働いている人はいないか。
今度は、その視点から教材探しを始めた。
■飛び込んできた新聞のタイトル
宮古の水産業で有名なのは、サケである。市でも宮古を「サーモン・ランド」と呼び、いろいろなイベントを展開している。
最初は、宮古の誇りをこのサケにしようと考えた。サケの漁獲高を高めるための努力も行われているし、いろいろな商品化もさかんだ。
「サケの中骨」という缶詰やサケの皮の財布も作られている。実物を示せば子供たちは、食いついてくるであろう。
また、サケ博士で有名な方を教室に呼ぶこともできる。
そんな授業展開が構想できてきた。
ところが、あと1週間ぐらいで単元に入ろうとしていた時、何げなく職場で見ていた地元新聞の記事が目に入ってきた。「イワガキ養殖へ推進協」(岩手日報・2000年5月19日朝刊)というタイトルの小さな記事である。
ふだんだったら見逃すかもしれない記事なのに、水産業の教材開発をしていたからだろうか。タイトルが目に飛び込んできた。
教材開発をしている時はそんなものである。ふだんは見逃すものでも、見えてくることがある。だから、より多くの教材開発テーマを教師自身が常に持っていることが大切なのであろう。
さて、イワガキの記事である。
日本海が主産地のイワガキを、太平洋で4年前から養殖試験を始めており、ある程度出荷できるようになってきた。イワガキの養殖技術の確立と普及を図るために推進協議会を設立するというものである。
宮古にとっては、間違いなく明るい話題である。
読んだと同時に、「これは教材になる!」と直感した。
■教師の「驚き・感動」が出発点
サケの構想はひとまず置いて、さっそくイワガキについて、インターネットで調べ始める。私自身がよくわからないからだ。
次々とイワガキ出てくるイワガキの通信販売。
そこを読むと、いろいろな事実がわかってくる。
・イワガキは主に夏場で獲れること
・冬のマガキに比べ粒が大きく、高価格で取引されること
・日本海側が主産地であること(通信販売業者さんは日本海側の地方ばかり)
太平洋側では、ほとんど獲れないイワガキ。きっといろいろな条件あってそうなったのだろうと予想する。
それでいながら、我が宮古ではイワガキを養殖しようとしている。いくら高価格で取引できると言っても、成功しなければ意味がない。でも、その困難なことにチャレンジしようとしている人がいるのだ。
そう思うと、取り組んでいる人の話が聞きたくなった。
すぐに宮古漁協に電話する。翌日、担当している水産研究所に授業を終えてからすぐに取材に伺った。
担当は芳賀さんという30代の方である。
こちらが質問をする事に、自信を持って語ってくれる。
次のようなことがわかった。
・イワガキ養殖に取り組むきっかけは、利潤をあげたい、名産にしたい、新しい活動に取り組みたいという理由だった。
・日本海にしかいないと思っていたイワガキが、岩手県沿岸にも分布していることが県の調査でわかり、本格的に取り組めると思った。
・養殖を始めての4年間は試行錯誤の連続だった。太平洋側で取り組むことの困難さを感じた。
・しかしながら、ようやく試験出荷できる段階になり、自分も期待している。
これらの話は驚きと感動の連続であった。
「身近なところ(水産所は学区にあった)に、このようなパイオニアがいる」という感動である。
どんな時代、どんな場所にも、新しい道を開く先人がいる。芳賀さんは、その人だと感じた。
「このイワガキは元気の出る教材になりうる」ーそう考えて、教材化することにした。
■「元気の出る事実」を教材化する
「元気の出る事実」をどう教材化するか。
ここからは教師の腕である。
ポイントと具体的な取り組み方法は次のようにしようと考えた。
☆日本海が主産地のイワガキを太平洋で養殖しようとしている価値→主産地の地図と宮古での養殖に関わる新聞記事を資料として追究させる。
☆イワガキ養殖の試行錯誤の物語→芳賀さんから借りた写真や資料から追究させる
☆実際にイワガキ養殖に取り組んでいる人々の誇りと願い→芳賀さんにゲスティーチャ―として、教室に来ていただき、話をしていただく。
結局、私自身の取材した過程そのものの再現が授業となった。
2時間の授業で、子供たちは、宮古でイワガキを養殖して育てることに共感したようであった。「宮古でもこういうことに取り組んでいると思わなかった」「イワガキの養殖が、これからの宮古に大切なことがわかった」「この養殖のことを、もっと全国に伝えればいいのにと思った」といった感想を書いていた。
ちょっとした新聞記事からスタートしたこのイワガキ養殖の教材化。この例から、私は「地域の元気な事例」を探し出す意義と楽しみを学んだ。この教材開発から1年が過ぎた今も、「地域の元気さがし」は続いている。
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私の教材開発物語 第4回 (2001・6)
「家庭科情報リテラシーを高める」
■消費者教育における家庭科情報リテラシーの必要性
消費活動に関する情報は、子供たちにとって身近なものである。
事実、子供たちは日常生活の中で、お菓子、衣料品、玩具類等、様々な消費活動を行っている。また、そのような消費活動を促進するテレビコマーシャル、雑誌等での宣伝も盛んである。
そんな状況の中で、子供たちに「情報リテラシー(情報を読み解く力)」が必要と考えた。情報を、自分なりの見方で適切に生活の中に取り入れ、判断をし、消費活動の意志決定をするようにさせたいのである。
■何を教材化するか
方向性が決まれば、次は何を教材にするかである。
子供と同じ視点を持つために、スーパーに入り、お菓子コーナーやおもちゃコーナーをのぞく。ふだんはあまり行かないところである。実際にスナック菓子をとってみる。パッケージには実に多くの情報が書かれている。
その時にふと思った。「子供たち自身は、このようなパッケージの情報を見ているのかな・・・」と。もし、情報を見ている子が少ないのであれば子供たちの視野を広めることができるのではないか。
さっそく、実態調査である。(5年生)
子供たちに、「あなたは、パッケージをよく見てから商品を買いますか」と聞く。3割ほどの子が「そうだ」という反応。残りは、「あまり見ない」ということであった。
むろん商品にもよるであろう。高価なおもちゃなどは一生懸命に読むに違いない。でも、日常の中ではパッケージにはそれほど注目をしていないということは事実のようである。
そこで、商品のパッケージに着目させ、情報リテラシーを高めさせようと考えた。
■ 実践例「発見!パッケージの秘密」
実際に行った1時間の授業を紹介する。
教室にズラリと並んだ商品のパッケージ。お菓子の袋、カレー粉の箱、空き缶等々。子供たちが家庭から持ってきたものである。
それらを最初に紹介をする。「あっ、それ食べたことがある」「へえ~、そんな物もあるんだ」と子供たちは興味深そうにパッケージを見つめる。
そこで、子供たちに言う。
いろいろな商品のパッケージを見て、わかったこと、思ったことを書き、発表しなさい。
さっそく、実際にパッケージを手にして分析する子供たち。次のようなことに気付いた。
★わかったこと、気付いたこと
・中に入っているものが書いてある ・保存方法がある
・注意書き(してはいけないこと)が書いてある
・作り方がくわしく書いてある ・一口メモもある
・メーカーがわかる ・栄養やカロリーがわかる
・賞味期限が書かれている ・量がわかる ・原料がわかる
・どこの国から来たものかわかる
・おまけのプレゼントを書いている
・お客さま相談室の番号が書いてある
・ホームページや会社の住所が書かれている
・調理例がある・・・・等
★思ったこと
・栄養のことが書かれているのは、食べる人のことを考えているんだと思った。
・消費期限が書かれているのは大事なことと思った。
・実際にものの写真があると、その中身がよくわかる。
・いいことをたくさん書くと買ってもらえる可能性が高いのでは。
たくさん出たところで、子供たちに「これらの情報がもしパッケージになかったら、どんなことが困りますか」と聞く。
「商品の苦情が言えない」「作り方がわからなくて困る」「いつまで大丈夫な食べ物か分からない」等、これまた多くの反応が出てくる。
パッケージの有用性について、少しずつ子供たちは感じとってきた。
では、それらのパッケージの工夫には、どんなよさがあると言えますか。
改めてパッケージの情報を得ることのよさを問う発問である。子供たちからは、次のような反応が出てきた。
・作り方が書かれていると初めて買う人にとっても大丈夫だ。
・注意点があると危険がない。
・買うときに安心する。(賞味期限等)
・自分が商品を買うときの目安になる。
・会社名や電話番号があれば、品質を保証していることになる等
このように子供たちの視野は広がった。
しかし、パッケージの情報にも「買わせるため」の誇大宣伝の例もある。そこで、子供たちに「パッケージを見て買ったけど、失敗
した点はありませんでしたか。」と聞き、例を出させた。
よさと同時にこのような視点も必要である。
最後に、「あなただったらパッケージを見て、これからどんなことに気をつけて商品を購入しますか」と問い、自分なりにまとめさせて授業を終えた。
子供たちは、この授業で次のような感想を持った。
・はじめてよくパッケージを見ました。いろいろな事がわかりました。栄養もわかるし、どこで作ら れたかもわかるから、パッケージはいろいろと便利だと思いました。
・パッケージがあるといろんなことが分かって、役に立つことがわかりました。今度から、カロリーや作り方をちゃんと見て、おいしく食べたいと思います。
・いつもあまり気にかけていなかったパッケージも意外にとても大切だったと改めて思いました。これからはよく読みます。
・パッケージというのは、私が考えているよりも重要な役割があることがわかった。特に、保存方法や会社名などの意味がわかった。
感想からわかるように、子供たちのパッケージに対する視野が広がる授業となった。
■ 今年はラベル作りにチャレンジ!
先の授業は昨年度のものである。
今年、連続して5年生を担任している。現在、家庭科の授業でフレンチソース作りをしている。そして、作るだけではなく実際にビンに入れ、ラベル作りをさせようと考えている。
実際にラベルを作るには、当然分析が必要である。実際のドレッシング商品のラベルを見て、次のようなものを書くことに決めている。
・引きつけられる商品名 ・楽しいデザイン ・注意事項
・原材料名 ・重さ ・バーコード ・その他の自分なりの工夫
どんなラベルになるか、今から楽しみである。
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