私の教材開発物語第7回・第8回
【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です。】
連載 私の教材開発物語 第7回
「地域さがしを『八景』で」
■ふるさと教育
総合的な学習について、私が住む宮古地区は全国各地の状況と違うのではないかと思われる。というのも、地域を題材とした学習を中核に据えている学校がほとんどだからである。
確かに、学区それぞれで地域に豊かな素材がある。海という自然。鮭のまち。そこで働くふるさとの人々。海にまつわる歴史。代々伝承されてきた伝統芸能。次々と地域に関わる題材は、見つかっていく。
ところが子供たちの文化状況はまた別だ。テレビ番組、カードゲーム、テレビゲームのことはよく知っていても、地域のことについてはよく知らないのが実情である。だからこそ、よけいに地域を対象とした学習が必要なのであろう。
本校も総合的な学習の時間の半分を、「ふるさとから学び、ふるさとに働きかけ、ふるさとに愛着を持つ子」の育成を目指した地域学習としている。
■ 切り口を何にするか
昨年度、その地域学習の一つとして、「地域に残る貴重なもの」を題材にしようと考えた。
よくある実践は「地域の宝さがしをしよう」というものである。悪くはない。しかし、何かしらのインパクトに欠けると思われた。
そこで、地域素材に関わる資料を見たり、実際に地域を歩いてみたりした。
資料の中で目に飛び込んできたのが、市の広報誌の小さな募集記事。タイトルは「新宮古八景募集」というものである。
「八景」と聞いて、有名なものでは「近江八景」「金沢八景」がすぐに思い浮かぶ。インターネットですぐに調べる。次のようなことがわかった。
・何々八景という嗜好は中国の洞庭湖を描いた瀟湘(しょうしょう) 八景図を見立てることから始まっていること。
・室町時代にはその瀟湘八景をもとに、さまざまな日本の風景が漢詩に読まれていたこと
・江戸時代には、屏風絵や版画の題材として流行したこと
「この『八景』を『宝さがし』のかわりに、子供たちの手法として導入したらおもしろいのではないか」と直感した。学区を対象とするので、名称は「高浜八景」である。
■ 構想しているうちに気付く「八景のよさ」
具体的に「高浜八景」を作らせる。その意味づけとよさを構想段階で考える。
まず、子供たちにとっては、「景色」というのは実際にふだん見ているだけにイメージしやすいということがあげられる。
地域にある神社、海、公共施設、川等、ウォッチングしながらたくさんの八景候補地を選ぶことができるであろう。たくさんの選択地があっても、それを八つに絞り込む必要がある。当然、その選択基準が問題になってくる。子供によって価値観が違うからおもしろい話し合いができそうである。
また、それぞれ選んだものについては発展性のあるものが多いと予想される。
たとえば、学校のそばの宮古湾には多くの鳥が飛来をする。それを八景に選んだ場合、「どんな種類の鳥がとぶのか」「その鳥の保護のために、地域の人々はどんな活動をしているのか」といった疑問が出てくるであろう。そのような調べ学習が八景選びから発展することが期待できるのである。
そして八景の「八」という数字。子供たちが、八景を選んだ後、一つ一つについて調べるとき、学級としてはちょうどいいテーマ数である。この時の学級は22人。八景の一つ一つのテーマについて調べる場合、各チーム3~4人であった。これは調べ学習にちょうどいい人数であった。
■ 「高浜八景作り」を活性化させるために
構想が固まれば、あとは実践あるのみ。
「八景のよさ」を実践の中で生かすために、特に次の3点に留意をした。
・導入の写真クイズで追究に火をつける
・「21世紀に伝えたいもの」という視点で活動を深化させる
・リスト作りで学習スキルの力のアップを図る
具体的な実践は省略をするが、子供たちの地域に対する愛着は確実に深まった。「お寺のおしょうさんの話を聞いて、このような歴史をちゃんと伝えていかなければいけないと思いました」「ふだん何げなく見ている海だけど、こんなにいろいろな鳥がいてすばらしいんだなあとうれしくなりました」という感想からもその様子がうかがえる。
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連載 私の教材開発物語 第8回
「宮古の自慢CMを作ろう ~NHKロケスタート~」
■ NHKロケがスタート
今月3日からNHK教育テレビのスタッフが、私の学級にロケに入っている。
「特集!メディアのABC」という特別番組制作のためである。放送日は11月17日(土)。NHK教育テレビである。
きっかけは、私の勤務する高浜小学校がNHK教育テレビ「体験!メディアのABC」の実践協力校となった。これは、小学校5~6年生向けのメディアリテラシー教育のための番組である。
その関わりで今回の特番のロケとなったわけである。
■ 教材「宮古の自慢CMを作ろう」
この番組では一つの単元での子供たちの姿を追う。
内容はもちろんメディアリテラシー学習である。
今回扱うのは、「宮古の自慢CMを作ろう」というものである。
私自身が昨年まで行ってきたメディアリテラシー学習は、「メディアを分析する」ということが中心であった。たとえば、「プロ野球番組を楽しく見る方法」「発見!CMの秘密」といったように、実際に子供たちが興味を持ちそうな番組やCMを細かく分析して、その見方を深めるといったものである。いわば「メディアの受け手としての学習」である。これはこれで意義があった。子供たちのメディアの見方が確実に深まった。
それが、今年度から始まった番組「体験!メディアのABC」の活用で授業スタイルが変わった。「メディアの送り手としての学習」になったのである。たとえば、「合成写真を作る」「組写真から物語を作る」「キャッチコピーを作る」といったようにである。番組の中で具体的にその手法が例示されているので、学習しやすいのである。
今回の「宮古の自慢CMを作ろう」は、その「メディアの送り手としての学習」の延長線上のものである。
ただ、実際に「送り手の学習」といっても、結果的には「受け手」としての視点も深めることになると考えている。CMを作る段階でキャッチコピーを作る。作るという立場になって、改めてテレビに入るCMのキャッチコピーにも注目するようになる。CMの画面構成を考える時に、アップにするかルーズにするか迷う。日頃何げなく見ているテレビニュースでは、それらが効果的に使われていることを知る。
そういう意味では、「CM作り」という送り手になる学習は、大変効果的な手法と言える。
しかも今回は対象が「宮古の自慢」である。自分たちの地域の自慢を調べることの意義は改めて言うまでもない。実に多くのメリットがある。
・自分たちの住む地域に何度も取材することができる。
・その過程で、地域に対する愛着を深めることができる。
・調べる過程で地域のことや特色に関わるキーマンを見つけることができる。
・その人に密着することによって、取材のイロハを学ぶことができる…等
この予想通り、今子供たちは街角で「宮古の自慢」のインタビューを行い、自分たちでキーマンを見つけ、魚市場や海岸に出掛けてCM作りに励んでいる。
そして、その様子をNHKロケチームが追っているのである。
授業のくわしい様子は次回で紹介をしたい。
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