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2016.07.10

私の教材開発物語第19回・20回

【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です】

連載 私の教材開発物語 第19回(2002年)

私の定番授業「発見!テレビCMの秘密」

■ 私にとっての定番授業

ここ数年、私は4年生以上の学年を担任している。学年が違っても毎年実践をしている授業がいくつかある。「発見!テレビCMの秘密」もその一つである。
 テレビCMは子供たちにとって身近な存在である。子供たちはそこから買いたい商品の情報を得たり、キャッチコピーの影響を受けたりしている。そこで、テレビCMになぜ引き寄せられるのか、その分析をさせたいと考えたのが、この実践のきっかけである。私にとっては、年間何回が実践をしているメディアリテラシー教育の一つである。

■ テレビ好きの子が生きる

 この実践を毎年行うのは授業そのものが楽しいからであるが、その他にも大きな理由がある。この学習で生き生きとする子が必ず出てくるからである。
 実践の布石として、10日ぐらい前に子どもたちに「テレビ日記」をつける提案を行う。

 君たちが毎日見ているテレビについて思ったこと、気付いたことを日記に書きます。テレビ番組でもいいし、コマーシャルでもいいです。長くても短くても構いません。期間は1週間です。

 これは強制ではなくあくまでも任意である。しかし、ふだんとは違うパターンの家庭学習に多くの子どもたちは興味を示し、次のような日記を書いてくる。(5年生の例)

☆CMを見ていると、何かの募集と視聴率を上げる宣伝と物を買ってほしいの3つに分かれると考えました。時間は15秒と30秒です。短い時間で楽しくするようにCMは作っていると思います。天気情報で、短い時間でわかりやすく図が書いてあり、言う人が「あ~さむそう」とかひとり言をいったり、洗濯情報が書いてあったりしました。見ていると楽しくなってきて、工夫をしているなと思いました。

☆今日、いろいろなCMを見て、一番すごいなあと思ったのは洗剤のCMです。人が天使のかっこうで、小さくなっていておもしろかったです。あれはどうやって小さくしているのかなと思いました。

 日記の中には子供たちが発見した番組やCMの工夫、疑問点が詰まっている。これらはそのまま授業での学習の視点にもなるものである。実際に授業でも子どもたちの日記の一部を活用することができた。
 また、このテレビ日記はふだん作文を苦手とする子でも、長く書く子がいたというのが特徴であった。テレビ好きの子である。ここぞとばかりに自分の思ったことや考えを書き連ねていた。その作文を見本として帰りの会で紹介をする。するとそれを励みにまた日記を書くという繰り返しである。そのような子は実際のCM分析の授業でも、テレビ日記をもとに積極的に発言をする。まさにこの学習だからこそ、生き生きとした取り組みができるのである。

■私自身もワクワク、教材開発

 教師自身も当然教材開発を行う。
 最初に考えるのが、どのCMを扱うかということである。当然、子供たちが興味を示すものを授業で扱いたい。そのためには、事前に子供たちの声やCMの見方を知りたい。先のテレビ日記が参考になる。しかしテレビ日記で子供たちのよく見ているテレビCMはわかるが、決め手に欠く。
 そこで、私はいつも子どもたちに「好きなCMベスト5とその理由」のアンケートをとる。その時の上位のCMを実際の授業の中で使う。
 扱うCMが決まれば、まず私自身が分析する。何度も何度も見て、実に多くの工夫がCMの中にあることがわかる。同時に、そのCMをキーワードに、インターネットで検索をする。その裏情報を知ることができる。また、CM関係の本も読み、授業に役立てる。
 このような情報を探っていくうちに私自身がワクワクする。教材開発の楽しさである。

■実際の授業~CM分析編~

 実際の授業を紹介をする。5年生の社会科「通信」の分野の一つとして行ったものである。
 最初に「みんなの好きなCMベスト5」を発表する。一つ一つを言うたびに子供たちから「うん、うん」「大好き!」といった反応が出てきた。あわせて好きな理由を簡単に発表させる。人気CMなだけに、子供たちは一気に興味を
示し、どんどん発言をする。一位の缶コーヒー(「明日があるさ」の曲でおなじみ)のCMの時には歓声があがるほどであった。そこで子供たちに言う。

「これから一位のCMを見ます。工夫をしている点や思ったことを発表しなさい。」

 ビデオは3回繰り返して見せた。その後5分間、気づいたことをノートに書かせる。子どもたちからは、次々と分析した結果が出てくる。

・有名な芸能人を使っているので、おもしろい。
・楽しいというイメージにさせてくれる。
・最初は何のコマーシャルかと思うが最後にコーヒーを出している。
・短い時間でパッとわかる。
・音楽がコマーシャルを明るくしている。
・お金がどれくらいかかっているか知りたい。(きっと多い)
・コマーシャルを作るのに、時間がかかっていると思う・・・・等。

 子どもたちの発表は次々と続く。新しい見方が出てくると、「なるほど」という声が自然に出てくる。子どもたちにとっては自分のCMの見方が広がる時間である。教師は子どもたちから出た視点を束ねていく。

■分析にプラスをする

 私自身は、メディアリテラシー教育の一つとして考えれば、このようにCM分析を行い子どもたちのCMを見る視点が広がれば、それでいいのではないかと考える。
 しかし、「発展」という視点からすれば、何かしらの「プラス」を加えたい。
 この場合には、5年社会の通信分野の学習の一つとして行ったので、テレビCMの経済的な面、CMを作る側のターゲットという面について深めたいと考えた。
 そこで、子供たちから出てきた疑問「お金」と「時間」について、資料を提示する。資料から、わずか15秒のテレビCMに多くの費用がかかっていることと、多くの人が制作に携わっていることを理解させる。子供たちからも「こ
のCMでは有名人が多いので、ギャラも高い」「このCMでの小道具にもお金がかかると思う」と実際のCMに即した発言が出てきた。
 ここで、子供たちをゆさぶる発問。

「そのようにお金がかかるのなら、商品が売れても得はしないのではないでしょうか。何のためにテレビコマーシャルを作るのですか。」

・いや、それでもコマーシャルをした以上に売れるから損はしない。
・資料集にあるようにテレビは一番みんなが情報を得るものだから、コマーシ ャルを作る。
・テレビは大量に情報を伝えるので、その商品を知ってもらえるから得。
・テレビコマーシャルはおもしろいので、はやりになる。すると商品も売れる。
・自分もコマーシャルを見て買ってしまう。そういう人は多いと思う。
・新聞よりもテレビの方が見やすい。
・コマーシャルのある民放で一番多いのは娯楽番組。それを自分たちもよく見ている。するとコマーシャルをよく見ることになるので、買う量も増える・・・・等。

 その意見を述べる過程で、テレビCMの経済的な側面と自分たちの生活への関わりを考えることができた。私からは、企業側の意図について次のように説明をした。

 テレビコマーシャルを見て、商品を買ったことがある人?(全員が挙手。実際に買ったものを次々に答えさせる。)このようにみんなも影響を受けています。コマーシャルを作る方も「ターゲット」と言って、買ってくれる人を絞り込みます。君たちも実はターゲットになっている場合もあります。(その例も示す。)

 そして最後の発問。「テレビCMは人々にとってどんなものと言えますか。」
 一人の子の発表。

「テレビコマーシャルは釣りのようなものである。釣る人が会社、餌はテレビCM。ぼくたちが魚。うまく釣られることもある。」

 テレビCMの一面を突いたこの表現に、子供たちは大爆笑であった。

■ テレビCMは幅広い活用が可能な素材

 分析をさせた後の「プラス」には、先の例の他にもいろいろ考えられる。私が今まで行ってきたのは次のようなものである。

1 合成映像の効果について(総合・情報教育の一つとして)
 ドリンク剤のテレビCMを分析して、合成映像の効果を考えたもの。
 子供たちは、二つのCMを比較することにより、同じ種類のCMでも送り手の意図によってイメージが違うことがわかる。

2 ビデオ撮影・編集の素材として(総合)
 子供たちがビデオを活用して発表する時に、効果的な撮影や編集の例としてテレビCMを使った。短いショット、効果的な音声の工夫等を分析し、自分たちの発表のビデオに応用することができる。

3 キャッチコピーの素材として(国語)
 テレビCMのキャッチコピーは魅力的なものが多い。その例として提示できる。

 このようにテレビCMの教材化は幅広く可能である。教材のヒントを期待して今日も私はテレビCMを楽しんでいる。

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連載 私の教材開発物語 第20回

    「地図帳は〇〇」
 
■ 「まるでドラえもんのポケットのよう」

 私が5年生を担任している時の社会科の時間。ある子が次のように言った。
「先生、地図帳はまるでドラえもんのポケットのようだね。」
 農業と水産業の学習をしている時に、一冊の地図帳がいろいろなことに活用できることをこのように表現したものである。「同感!」とその瞬間に呟いてしまった。
 地図帳の活用方法は実に幅広い。社会科の学習で地図・統計資料等で使うことはもちろん、総合的な学習における環境教育や国際理解教育でも、場合によっては他教科でも活用することができる。また、休み時間に地図帳を広げている子やペアで地名探しに熱中する子もいる。これは何かの目的のために使うのではなく、見ること自体が楽しみになっている例である。私自身も小学校の一時期、暇さえあれば地図帳を見ていたものであった。

■ 「地図帳そのもの」を対象とした授業

 先日、地図帳製作に関わる方を学年(4年生4学級)でゲストティーチャーとして招いた。他の3学級では、ゲストティーチャーの方が主として話をする形の授業を行った。私の学級ではせっかくの機会であるから、「地図帳その
もの」を対象とする授業を行うことにした。ゲストティーチャーには、子どもたちの地図帳に関する質問に答えていただくことにした。
 それまでは授業の中の一部として地図帳を使うということはあったものの、「地図帳そのもの」を対象として授業を行うということは今までなかった。いろいろな地図帳の機能を子どもたちに感じ取らせたい。そして授業の最後
には、「地図帳って便利だ」「地図帳はこんなことにも使えるんだ」「もっと地図帳を使ってみたいなあ」といった感想が子どもたちから出てくればいい。そう考えた。

■ 授業「地図帳は〇〇」(4年生対象)

1 都道府県3クエスチョンズゲームを行う。(都道府県図を見ながら)
 (1) 教師が画用紙に答えとなる都道府県名を事前に書いておく。
 (2) 子供たちが答えの都道府県に関わる質問を3つする。
 (3) 教師が質問に一つずつ答え、それを手がかりに子供はその都道府県を予想して発表する。
 (4) 教師が答えを発表する。(以上を3問繰り返す)全問正解者に大きな拍手をする。

 このゲームは、楽しみながら、都道府県名およびその位置、形、特色等を覚
えることができるものである。

2 地図帳の有用性を感じる利用法を教える。

 「地図帳では特産物を絵記号で知ることができる」
 「地図帳では距離や交通手段を知ることができる」
 「地図帳では各地の気温を知ることができる」
 「地図帳では索引を使って見知らぬ土地を見つけることができる」
 「地図帳では日本一・世界一高い山や広い湖などがわかる」等の様々な活用法を具体例に基づいて、地図帳の便利さ、すばらしさを実感させる時間である。一つ一つの方法について次のように設問をして、子どもたちが地図帳を見ながら解決していこうという形をとった。
 たとえば、特産物では、次のような設問である。

★アメリカ合衆国の人が私たちの水沢小学校を見学に来ました。帰る時に「岩手県のおみやげは何がいいですか」と聞かれました。あなただったら、何を出しますか。

 子どもたちは岩手県の地図の絵記号を必死で見る。「やっぱり南部鉄器かな」「りんごもおいしいよ」「『浄法寺ぬり』というのもあるんだ」と特産品の絵記号を見つけては、「はい、はい!」と挙手をする。
 距離を測る時には、「同じ岩手県の宮古市の方が隣の県の仙台市より遠いんだ」と分かったり、同じ頃の沖縄の平均気温が24度知って驚いたり(本校はその日は最高気温10度)と子どもたちの地図帳への関心はぐっと広がった。

 最後に子どもたちに、聞く。
「『地図帳は〇〇』。〇〇にあてはまる言葉を発表しなさい。」
・地図帳は便利
・地図帳はすごい事典
・地図帳はいろいろなことを知る本
・地図帳はみんなの味方
・地図帳はおばあちゃんの知恵袋・・・等、地図帳の有用性に関するものが次々と出てきた。

3 地図帳に関わる疑問についてゲストティーチャーの方に答えていただく。(略)

4 授業の感想の発表。

・今まで地図帳のことがよくわからなかったけど、よく分かりました。気温や名産品のことを書いているのがすごいと思いました。
・今日はいろいろなことがわかってよかったです。特に地図帳は、とても書くことがむずかしいのに、わかりやすい地図帳を作ろうとしているのがわかりました。それにしても地図帳は本当に便利だと思いました。

■ どの学年でも、どんな時でも気軽な地図帳利用を

 小学校社会の学習内容から言えば、「3年で市」「4年で県」「5年で国土」「6年で世界」という地図利用が多いと思われる。しかし、子どもたち個人のレベルでは、興味を持つ分野でどんどん地図帳利用を促進して、知の世界を広げさせる方がよい。たとえば4年生でも、世界各国に関わる地図の見方や教えることにより、子どもたちは世界にも興味を持つ。
 この地図帳利用の授業のあと、社会科の授業始めに継続的に5分ほどの「地図帳発見タイム」を設けている。少しずつではあるが、地図帳を開く回数が増えているのは確かである。今日も、休み時間に「3クエスチョンゲーム」をする声が響いている。

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