私の教材開発物語第13回・14回
【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です】
連載 私の教材開発物語 第13回
ゲストティーチャーのよさを引き出す
■ 森林資源育成に従事する人から学ぶ
今年度(2001年)、5年生を担任して、社会科で実に多くの方々から学んだ。農業、漁業を営んでいる学区の方、市内の部品工場の方、そして放送局の記者。教科書や資料からは得られない生きた社会科の学習ができ、そのつど子供たちは大きな学びをしたものであった。
3学期の社会は森林資源の働きが主な学習である。当然、ここでも森林資源育成に従事する人から学ぼうと考えた。
ところが、この学習は1・2学期のパターンとは異なる。農業にしても工場にしても、実際に見学に行くことができた。働いている様子を実際に見て、学びを深めることができたわけである。
しかし、今回は森林が対象ということで、冬の時期の見学は無理である。そうであれば、教室にゲストティーチャーとして来ていただくのが一番よい。
そうと決まれば、まずは人材探しである。同僚の先生方に聞くが、今まではそういう方はお呼びしていないとのこと。
「森林のことなら営林署だな」と見当をつけて電話帳を探すが該当するものは見つからない。即、インターネットで探す。「宮古 森林」を入力すると「三陸北部森林管理署」のHPが出てきた。
読んでみると、「営林署」という名称は現在はなく、「森林管理署」というように組織が改変されているとのことであった。しかも、他校に「森林出前教室」で訪問しているということも掲載されており、「これならゲストティーチャーとして呼べそうだ」と感じた。
さっそく交渉。OKの返事をいただく。
■ 質問をメインにする授業
さて、このように、「お話を聞く」というゲストティーチャーを招いた授業の場合、どのようなパターンの授業になるだろうか。2つの例を紹介する。
【パターン1】 授業のほとんどがゲストティーチャーのお話が中心となるパターン。たとえば45分のうち35分がお話、残りが質問コーナーという具合である。ゲストティーチャーの専門的な話が十分に聞くことができるというよさがある反面、難しい話や講義調になってしまう場合もある。
【パターン2】 あくまでも教師の授業がメインで、その中の一部にゲストティーチャーが登場するパターン。授業者の意図があるのでゲストティーチャーの話す時間は少ない。
私の場合はかつては1のパターンがほとんどであった。
しかし、今では違うパターンである。「お話を聞く」という場合には、次のようにしている。
【パターン3】 1 ゲストティーチャーが10~15分程度の話をする。
2 子供たちが20分~25分程度の質問をする。
3 残りの時間でゲストティーチャーと教師がまとめの話をする。
いわば「質問がメイン」の授業である。
これは雑誌「授業づくりネットワーク」(学事出版)2000年8月号で上條晴夫氏が、「『質問する技術』を教えたい!」で提案されていたことであった。
実際に試してみるとパターン1に比べ、いくつものよさがあることに気づいた。
・まず、子供たちの学習内容が深まる。知りたいことを学ぶことができる。そのためには、事前に質問内容を吟味するという作業が必要になる。
・ゲストティーチャーの個性が伝わってくる。質問に対して答える時には、ゲストティーチャーの人間性が垣間見られることが多い。
・子供たちとゲストティーチャーとの心の交流が深まる。
・子供たちが主体的に興味を持って参加できる。
この中で一番のよさは「ゲストティーチャーの個性や思いが伝わる」ということと感じている。これだけでも「人から学ぶ」という価値がある。
■ 実際の授業
三陸北部森林管理署の方をお招きしての授業。事前に打ち合わせをしてから、来校していただいた。署長さんがじきじきに来られた。
署長さんは、ゲストティーチャーとして学校で教えるのは初めてということであった。(HPに掲載されている森林出前教室は前署長の時のこと)
最初、15分間、日本と宮古の森林事情について話してもらう。
「宮古市重茂にある大ケヤキは『森の巨人たち100選』に選ばれた」「皆さんにお願いしたこと」といった話に子供たちは興味を示す。自分たちの知らない事実だからである。
そしてメインの質問タイム。
子供たちが事前に考えていた質問、そしてその日のお話から考えた質問が次々と出てくる。子供たちの質問に、はじめは硬かった署長さんの表情も和らいでくる。同時、口調も滑らかになってくる。「質問効果」と言ってもよいかもしれない。
一番個性が出たのは、次の質問のときであった。
Q 「木を育てる『一番の喜び』って何ですか」
A 「そうですね・・・。自分が若いころ(署長さんは50代)、山に植樹ををしました。『どんどん育ってくれよ』という思いで植えたものです。
その場所には、仕事の関係でしばらく行ったことがなかったのですが、数年前、たまたま行く機会がありました。そうしたら、自分が植えた木が大きく育っていました。その山を見た時に、素直に感動しましたね。『この仕事をしていてよかった』とつくづく思いました。」
この話から、署長さんが誇りを持って木を育てていることを私も子供たちも感じ取ったのであった。
これは講義調のゲストティーチャーとの授業では生まれないものであろう。
■ ゲストティーチャーも感動
授業終了後、校長室にゲストティーチャーを招いた。
学校長に署長さんが、開口一番、「いやあ、今日は私が感動しました」。子供たちの質問に、今まで自分が携わってきた森林の仕事をいろいろと思い出したということである。
「初めて学校で教えるということで不安だったのですが、子供たちに励まされたようなものです」とも話された。
社交辞令はあるにせよ、このように言われると、ゲストティーチャーを招いた甲斐があったと感じる。もちろん、子供たちの学びが大きかったことは言うまでもない。
その意味で、質問をメインにした授業は、ゲストティーチャーのよさを引き出すものと言える。
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連載 私の教材開発物語 第14回
新任地での教材発掘、スタート
■ 新任地、恒例の休日学区フィールドワーク
この4月、転勤となった。(2002年)
3月まで勤めていた宮古市は岩手県沿岸の中ほどにある。今度勤務する水沢市は県南部。その距離およそ130km。引っ越しは車で2時間半。改めて岩手の広さを感じる。
転勤をして、いつも楽しみにしていることがある。それは、転勤してすぐの休日のフィールドワークだ。
以前、水沢市の隣の江刺市に勤務をしていたので、水沢市についてはある程度知識はある。しかし、それが小学校区となるとまた別だ。
今年度は4年生担任。しかも学校の総合的な学習の部長となった。そのため、このフィールドワークは「新たな教材開発のため」という意味合いもある。
単なる観光客気分で見歩くのと、「社会や総合で活用できるものはないか」と意識してフィールドワークをするのではおのずとその視点が変わってくる。見えなかったものが見えてくるのである。
というわけで、自転車を走らせた。
■ 「先人の街」
水沢市を表すキャッチコピーはいくつかあるが、市民がよく口にするのは「先人の街」ということである。特に、高野長英(幕末の思想家)・後藤新平(政治家)・斎藤實(政治家・首相)の3人は水沢が輩出した3先人と呼ばれている。
この3人の肖像画が我が校の体育館に飾られているほどである。
学区にはいくつかの先人の記念館がある。さっそく後藤新平記念館を訪れる。
後藤新平の業績は実に幅広い。逓信大臣兼初代鉄道院総裁、東京放送局(NHKの前身)初代総裁、日本ボーイスカウトの初代総長、台湾総督府民政長官、そして東京市長として「大風呂敷」の異名をとった。広い視野に立った政治家であったが、当時(明治後半から大正)はその先見性ゆえに理解されないこともあった。しかし、後世では高い評価を受けている。
そのような後藤新平の記念館であるが、水沢市が観光地ではないため、お客さんは決して多くはない。そのためか館長さん自ら「どうぞ。こちらが収蔵品コーナーです。」とおもてなしをしてくれた。パネル、手紙、使ったものから後藤新平の人柄と業績を偲ぶ。肉声を聞くことができるコーナーでは、彼の政治に対する信念を感じることができた。
館内来訪者の記帳を見ると岩手のみならず、宮城、青森といった県外の方も多い。また、市内の他地区の小学生の字もある。きっと総合の学習や自由研究で来たのであろう。
この後藤新平記念館だけではなく、「斎藤實記念館」「先人記念館」も訪れる。
これほどの先達がいるのである。「先人から学ぶ」という学習がすぐに浮かぶ。
■ 「歴史」が随所にある
水沢にはかつて城があった。その名残で、学区にはいくつかの武家屋敷が残されている。その中の一つ、学校の近くの内田家に入る。見学は無料であるから、子供たちと気軽に訪れることができそうだ。江戸時代にタイムスリップした気分である。
遠くからは太鼓を練習する音が聞こえてくる。4月29日に行われる日高火防祭の練習であろう。豪華絢爛といった表現がぴったりのはやし屋台が祭りのメインである。この祭りは長い歴史を持つ。子供たちの中にも、今まで屋台で太鼓をたたいた子がいるに違いない。
「祭り」という学習を通して地域の歴史を知るのもいいなと思う。
■ 「まちづくり」の工夫
学区にはJR水沢駅前の商店街もある。
どこの地域でも同じであろうが、今は郊外に大型店がどんどん進出して、駐車場が少ない駅前商店街は苦戦を強いられている。よく見てみると、シャッターがおりている店もいくつかある。
しかしながら、随所に工夫も数多く見られる。鋳物を使った街灯や車止め(水沢は南部鉄器の街でもある)、ポケットパークやモニュメント、そしてカラー歩道。何とか商店街を活気に満ちたものにしようとしているのがわかる。
4年生の社会の学習は「くらしとまちづくり」が中心である。このような素材が学区にはあるのだ。この素材をどう料理をしていくか、楽しみだ。
■ フィールドワークは教材開発の意欲を高める
フィールドワークをすること、およそ3時間。実に多くの教材開発の素材があることを改めて感じた。
後藤新平や日高火防祭については、インターネット上にも数多くの情報が存在する。それで知識を得ることはできる。
しかし可能であれば、実際にフィールドワークをする方がもちろんよい。何よりも教材開発の意欲がわいてくる。
この日に回ったのは学区の一部でしかない。きっとまだまだ埋もれて素材があるだろう。休日のフィールドワークはこれからも続きそうである。
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