私の教材開発物語第25回・26回
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連載 私の教材開発物語 第25回(2003年)
「都道府県名はどのように教える?」
■ とある数字
今年度は5年生担任となった。
新年度の準備をしている春休みに、地図関連の小冊子が送られてきた。「何か面白い情報があるかな」とパラパラめくると、ある数字が目に飛び込んできた。
・4年生・・・13.6県
・5年生・・・20.0県
・6年生・・・19.2県
これはある教科書会社が行った県名認知度の調査での「平均県名獲得数」である。調査の方法は簡単である。日本の白地図の各都道府県に1~47の番号をふり、都道府県名を書き込むものである。サンプル数は約12,000人である。
この数字を「これしか覚えていないのか」と思う人もいるだろうし、「予想以上に高い」と思う人もいるだろう。私もがぜん興味を示した。そして、新しく担任する5年生にも行ってみようと考えた。(それにしても6年生が5年生より低いのはおもしろい。地図帳の使用頻度が違うからというのも理由の一つであろう。)
■ 「全然できなくてショックでした」
同じような方法で、5年生になって2回目の社会の授業で調査を行った。北から順に書いていった子どもたちであったが、ものの3分もしないうちに鉛筆が止まってしまう子が続出した。どんどん書き進めていく子はごくわずか。
5年生の最初であるから、実質的には4年生での結果と考えてよい。我が学級は全国平均より低かった。北海道、岩手、沖縄はほとんどの子があっていたが、その他は東北各地と東京、千葉等の正解者が多かっただけである。中国地方・四国地方・九州地方はほぼ全滅。
この結果は、私自身より子どもたちがショックを受けたみたいで、「ぜんぜんわかりませんでした。もっと県のことについて調べたい」「かけなくてくやしかった。今度はもっと覚えておきたい」という感想が続出した。
無目的に都道府県名を詰め込み方式で覚えさせる必要はないと思うが、「都道府県名を覚ええなくてもよい」と考えている人はいないであろう。6年生の歴史学習、そして中学校の社会科学習においても、都道府県名や特徴を覚えておいた方が学習効率がいいのは当然である。「今年度は本格的に都道府県名を覚えるために、新たに教材開発をしていこう」と決意をした。
なお、私自身は大人の県名認知度も調べるとおもしろいと思う。日本人全体の素養がどれくらいなのか、興味のあるところである。
■ すぐにしたこと
思ったら即実行である。
まず教室の壁に日本地図を貼った。同時に世界地図も貼り、地球儀も持ち込んだ。貼っておくだけで子どもたちは興味を示す。地図帳は毎日持参。機会があるごとに調べさせるようにする。朝の会では大きなニュースを伝え、その場所を日本地図で教えるようにした。
また、調査で行ったのと同じプリントを大量に印刷をした。月に一回程度、定期的に調査を行い、子どもたちに自分の伸びぐあいを自覚させるようにした。
日常生活の中で都道府県地図が当たり前になってくると、子どもたちも家庭学習の中で、地図の学習をする子が増えてきた。子どもたちの興味が少しずつ広がってきているのがわかった。
■ ゲームで覚える
学習ゲームの一つとして、次のようなゲームも行いたいと考えている。
【都道府県3クエスチョンズゲーム】
□ゲームのやり方
(1) 教師が画用紙に答えとなる都道府県名を事前に書いておく。
(2) 子供たちが答えの都道府県に関わる質問を3つする。
(3) 教師が質問に一つずつ答え、それを手がかりに子供はその都道府県を予 想して発表する。
(4) 教師が答えを発表する。(以上を3問~5問程度繰り返す)
□ゲームの実際(以前5年生を担任した時の記録)
『では一問目です。質問をどうぞ』
「それは何地方にありますか」
『中部地方です』
子供たちの目が一斉に中部地方に集中する。これで9つに絞られる。
「その県は、大きいですか。小さいですか」
『大きいです』
この質問で、今度は県の面積や形に注目する。「新潟かな」「長野かな」といったつぶやきも聞こえる。そして最後の質問。
「何で有名ですか」
『りんごです』
「わかった!」という声も出れば、すぐに細かい県の地図からりんごの絵記号を探す子もいる。
『答えはどこですか』
多数挙手する。一人の子を指名する。
「長野県です」(大多数が「同じです!」)
『正解はこれです!』
と言って、あらかじめ「長野県」と書いておいた画用紙を黒板に貼り付ける。
「ワー!」という歓声が子供たちからあがった。
このゲームのよさは都道府県名を地方や地形、特徴と関連づけて覚えることができる点にある。やり方を覚えればペアでもできる。休み時間に行う子もいたほどである。また、都道府県だけではなく、世界各国3クエスチョンズゲームとしてもできる。
■ 低学年のうちから地図に慣れていれば・・・
認知度の低かった我が学級において、唯一40都道府県を越えた子がいた。その秘訣を聞いてみたら、「幼稚園の頃にクリスマスプレゼントでサンタさんからもらった地図の本が好きで、1・2年生でもよく読んでいたから」とのこ
とであった。その地図の本がどのようなものかは知らないものの、きっと日本の都道府県名が書いていたのは確かであろう。
そして、4年生になり正式に地図帳を使うことによって、知識が確かなものとなったのではないかと推測される。そう考えると、低学年で日本の都道府県に興味を持たせることがいかに大切かということがわかる。自分が低学年の担任になったら、朝の会で何らかの実践をしてみたいと思う。
※付記:この時の子どもたちは6年生までに都道府県を多くの子たちがしっかりと覚えて進学した。中学校の社会の先生にはのちに「佐藤先生の学級だった子どもたちは、地理も歴史も知識を身に付けていたので指導が楽だった」と言われた。
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連載 私の教材開発物語 第26回
「教材開発を楽しむ」
最近、自分の教材開発(主として社会や総合)の方法について簡単にまとめる機会があった。特別な方法があるわけではない。ただ私自身が楽しんでいるのは事実である。その方法の一端を紹介する。
■ 教材開発の方法あれこれ
教材開発を進んで行うようになって十数年。「本で調べる」「可能であれば現地取材、できない時には電話で」が教材開発の基本である。これは今も変わらない。これに最近はいろいろな方法や道具が加わってきた。
1 きっかけとしてのインターネット
一次情報を知るという点ではインターネットは本当に便利である。キーワードを打ち込むだけで関連情報、図書、キーマン等が見つかる。以前、農業関係で国際貢献をした日本人を扱った授業を社会で行いたいと考えた。キーワードで検索をする。該当する人物にたどり着いた。インターネット出現前ならできなかったことである。今は地域情報のホームページも多いので、地域関係の教材開発の時にも必ずチェックしている。
2 いつでもどこでもデジカメ
デジカメの便利さは言うまでもない。保存、削除が簡単にできるのはもちろん、テレビにつなげての写真提示も容易である。外出した時に「これはおもしろい。授業の教材となる。」と思うことが時々ある。その時の記録用に持ち歩き、気軽に写真を撮るようにしている。
3 地域巡りは自転車で
学区のことや市のこと、そしてそのよさを子どもたちに知ってほしいと思っている。そのためには教師自身が知ることがまず一番である。時間があれば可能な限り地域を巡っている。それも自転車で。「小回りがきく」「あちこちを見ながら移動できる」「駐車に困らない」ということを考えたら、自転車がいい。 場合によっては対象の関係者に気軽に声をかけるもできる。もちろん、この時にもデジカメ持参である。
4 旅行は新たな教材開発のチャンス
その土地の産業や〇〇記念館などは、授業にそのまま使える資料が入手できることが多い。もちろんインターネットでも調べることができるが、現地を見て閃くこと、取材から学ぶことはその何倍も教材開発がしやすい。もっとも家族旅行の場合にはほどほどにしないと家族にあきれられるが・・・。
5 あちこちの情報から発想を得る
新聞やテレビはもちろん、ミニコミ誌も貴重な情報源だ。市広報に「新八景募集」の記事があった。それからヒントを得て「高浜八景を作ろう」という単元を構成したことがあった。また、テレビで「100年前の未来予測」という特集ニュースが入っていた。これをヒントに「100年後の未来予測・22世紀の世界は?」を子どもたちに授業をした。ちょうどこれが20世紀最後の授業となった。どのように教材化するかという発想のヒントはあちこちに転がっているものだ
と感じる。
■ いつくものネタを「温めておく」
現在5年生の担任である。次に学習する単元について、何かしら工夫した教材開発を心がけるのは当然である。
同時に思いつくまま、気の向いたままランダムにいろいろなことを調べているのも確かである。「気になるもの」「ヒントになるもの」があったら、その記事・資料・写真等を即保存する。もちろん5年生以外のものも積極的に収集する。私の場合には事務用袋に入れて学年ごとにまとめておいている。
保存する時には、その時の閃きをメモ書きして一緒に入れておく。後で見た時にこのメモが役立つ。
いくつものネタを温めておくことにより、そのネタの視点が自分の中に意識化される。そうすると不思議なもので、関連情報が集まってくる。他学年の情報を集めるのは、その学年を受け持った時の自分のためばかりではない。他の先生方にも提供できるネタを・・・と考えている。
■ ゲストティーチャーから自分も学ぶ
教材開発の目的はもちろん「よりよい授業のため」である。同時に、自分の一番の楽しみとして「いろいろなことを学ぶことができる」ということがある。特にゲストティーチャーを招く時の打ち合わせは、「プロから独占的に学ぶことができる贅沢な時間」である。
水産研究所に行き、太平洋側では珍しいイワガキ養殖の様子を見せていただく。地域の伝統的な祭り「日高火防祭」の昔のお話を聞いたり、倉庫にある道具を見せていただいたりする。茶の湯体験を子どもたちにさせようとお願いに行き、まず自分だけがじっくりと体験をさせてもらう。地元のコネクタ工場で生産力アップの秘密を知り、学校現場での仕事でも応用できるヒントを得る。・・・このような経験を年に10回以上はしている。ふだん異業種の方々との接触がなかなかできない私にとっては、実に貴重なそして贅沢な学びの場である。これも教材開発の大きな魅力である。
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