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2016.07.24

私の教材開発物語第27回・第28回

【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です】

連載 私の教材開発物語 第27回(2003年)

「国旗を知り、国旗を作ろう」

■ アメリカ合衆国の小学校の風景

 1993年、アメリカ合衆国の小学校で1ヶ月、研修をする機会があった。北西部にあるオレゴン州ポートランド市の小学校である。小学校の授業参観しながら、時には私自身も授業を行った。

 その時のことで印象的に残っていることの一つに「国旗」がある。
 どの学級も、教室前方の黒板の上に星条旗が掲げられているのである。ふだんは特に意識をすることがない。それぐらい当たり前の風景のようである。
 学級によっては、「では何か歌おうか。まずは国歌を。」と担任の先生が言って国歌を突然歌ったり(それも誇らしげに)、朝毎日、胸に手をあて国旗に向かって「誓いの言葉」を言ったりしていた。
 「この点は違うなあ」「『国旗の理解』が日常的にされているんだなあ」と感じたものであった。

■ 国旗について知ろう

 その時から7年。総合的な学習で国際理解の学習をするようになった。その時に、アメリカ合衆国でのこの一風景がきっかけとなって「国旗の授業」をしたことがあった。対象は4年生である。授業の様子を学級通信で紹介をする。

-------------------------以下学級通信より-------------------------

 いろいろな国旗の由来を知ることは、自国の国旗の理解にとっても大切と思います。いわば国旗への関心を高める授業です。
 1月下旬に英語指導助手の先生が教室を訪れる予定です。このことをきっかけとして、子どもたちの英会話に対する興味が高まりました。せっかくの機会なので、子どもたちの外国に対する関心をさらに高めたいと思い、国旗の授業を計画しました。
 ちょうど、地図帳の一番後ろにいろいろな国旗が掲載されています。それをもとに授業をしました。

 マドゥさん(英語指導助手)の国、アメリカ合衆国を探しなさい。(すぐに見つける) 次にアメリカ合衆国の国旗を探しなさい。どんな旗ですか。
 「星がある」「赤い線が入っている」と子供たちはすぐに答えます。子どもたちにが見たことのある国旗です。
 「星はいくつありますか」と聞くと、一生懸命に数えます。「50だ」「そうそう」と言う声も聞こえます。
 「なぜ、星の数は50なのでしょう。」
 「県!」「惜しい」「州だ」と答えが出てきました。
 「50の星は今の50州を示しています。赤色の線は「勇気」を、白色は「清らかさ」を表しています。」

 こんな感じで、「国の位置の確認」「国旗の確認」「国旗に示されている意味を考える」というパターンで、次々といろいろな国の学習をしていきます。

 アメリカ合衆国の次は、アルゼンチンです。
 「水色は何を表しているでしょうか?」と聞くと、「青空」と出てきました。正解です。
 今度は、カナダとスリランカの国旗について聞きました。
 「カナダの真ん中にある模様は何でしょう」
 「ひいらぎかな?」
 「これは、『さとうかえで』という葉です。木から甘い液が出てきて、飲むことができます。どうしてこのような模様にしたのでしょう。」
 「カナダにその木が多いから。」
 「そうです。カナダでは、国を開拓した当時、その液を吸って飢えをしのいで国を作ったという言い伝えがあるからです。」
 スリランカの動物はいろいろと出てきました。「犬」「シーサー」「こま犬」「ライオン」等々。これは、国ができた当時の王が「獅子王」と呼ばれたことにちなんでいます。

 これらの例の他にも、ヨーロッパには十字架にちなんだ国旗が多いこと(これは子どもたちがキリスト教に関係あるとすぐにわかりました)、西アジアでは星が多いこと(砂漠の地方が多く太陽が地獄のような存在)、オーストラリ
アとニュージーランドがイギリスと関係が深いために、イギリスの国旗の一部が使われていること等、いろいろな国旗の由来について学びました。

 そして、子どもたちに聞きました。
 それぞれの国旗の色や模様には何があると言えますか。
 「いろいろな意味がある」「わけがある」「歴史がある」・・・といった反応が子どもたちから出てきました。その後書かせた感想からも次のように「新しいものを学んだ」ということが多く出てきました。
・いろいろな国旗に意味があるんだなと思った。もっとほかに国旗を調べてみたいと思った。
・私は、国旗にも意味があることを知りました。色には正義や勇気という意味がある。すごいなあと思った。
・国旗にもいろいろと意味があるんだなあと思いました。自分で国旗を作ってみたいと思いました。国旗に大切なものを入れていいなあと思った。
                       (以上、学級通信より)

■ 国王になって国旗を作ってみよう

 この授業での感想の特徴は、「もっと調べたい」「その国に行きたい」「国旗を作りたい」と学習意欲が大きい点であった。
 そこで、翌日次のように言った。

「国旗のことを君たちは勉強しました。
 次は君たちが国王です。(「オー」という声。) 君たちの国旗をつくりましょう。作り方は次の通りです。
 1 どこかの国旗をモデルにする
 2 模様や色の意味を考える
 3 国の名前もつける」
 4 B5判の大きさの画用紙にクレヨンで色をぬる」

 子供たちは喜んで取り組んだ。メルヘンチックなものあり、本物の国旗にしていいようなものあり、子どもらしいもの(でも、ちゃんと意味がある)ありとなかなかの力作がそろった。

 一人一人発表をした後、さっそく教室に掲示する。といっても壁に掲示をするのではない。ひもに一つ一つの作品をつけ、運動会の万国旗のように教室の端から端へとつるした。教室の風景が一気に国際色が豊かなものになった。その後教室を訪れた英語指導助手の先生が教室に入るなり、「ワンダフル!」と言ったことが印象的であった。

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連載 私の教材開発物語 第28回

「子ども向け料理番組を作ろう」

■ メディアの「送り手」になる意義

 ここ数年、高学年を担任した時には総合的な学習で「ビデオ番組作り」を行っている。この学習に取り組む意義は大きい。
 一番は、子どもたちがメディアの「送り手」の立場になるということである。送り手になって初めて見えてくるものがある。たとえば、番組の構成・カメラの構図・キャッチコピーといったものである。メディアの見方が深まるのであ
る。
 そして子どもたちが燃える。本当に番組作りのために全力投球をするのである。
 私自身、2年前に「宮古の自慢CMを作ろう」(以下のサイト参照)の学習で痛感した。

 しかしながら問題点もある。それは「時間がかかる」ということである。本格的に行おうとすると10時間以上はかかる。総合的な学習で計画されていたり、時間が確保されていたりすれば別だが、教科の中では難しいであろう。
 さて、私が所属する「授業づくりネットワーク」で発行している雑誌の11月号で「メディアリテラシー教育特集(子ども向け番組を扱う授業)」を企画していることを知った。条件の中に短い時間で手軽にできることとある。

 「これはチャンス」と思った。今までの自分の実践は長い時間をかけたものであった。「ビデオ番組作り」のよさを広めるためには、「手軽にできる」実践を行うのも大切である。さっそく実践希望の立候補をした。

■ 手軽に行うための条件

 子どもたちが取り組むテーマは「子ども向け料理番組を作ろう」というものである。次のようなプランを立てた。

□1時間目・番組「ひとりでできるもん」を分析すると共に、番組作りを自分たちが行うことを知る。
□2~3時間目・自分たちの意図を考え、「野菜サラダ」の番組を構成する。
□4~5時間目・番組作りをする
□6時間目・作品発表会および交流会を行い、学びを振り返る

 手軽に行うためにはいくつか条件がある。今回は次のようにした。
・料理は子どもたちが家庭科で作った経験のある野菜サラダとする。
・3つの班で一つの番組を作ることとする。一つの班が1~2分程度。 (学級は36人の6班編成・二つの番組ができる。)
・番組で使う道具は改めて作らない。学校にあるものや持っているものを使う。
・カメラ撮影の基本は三脚で、アップは原則として使わない。(初心者でも上手に撮影するために)
・順番通り録画をする完全パッケージ方式で、編集は行わない。テロップ、音楽等も入れない。
・ビデオ撮影の役割分担も必要最小限のものとする。

■ 1時間目・作りたい!料理番組

 授業の様子を紹介する。
 最初に「料理番組で知っているものは何ですか?」と聞く。「どっちの料理ショー」「3分クッキング」「ひとりでできるもん」等、どんどん出てくる。
 一つの番組を子どもたちが発表するごとに「そうだ、そうだ」「うんうん」と反応も豊かである。
 「たくさん出ましたね。今日はそのうち、まず『3分クッキング』を見せます。」
 この「3分クッキング」はメインではない。次のための伏線である。
 「では次に『ひとりでできるもん(NHK教育)』を見ましょう。」事前に「3分クッキング」を見ているだけに、子どもたちは「比較」の視点で自然と見る。

 「『ひとりでできるもん』を見て、気づいたこと、思ったことを発表しなさい。」と言うと、次のようなものが出てきた。
・楽しい
・キャラクターが出てきている
・子どもたちが喜ぶように歌や踊りがある
・3分クッキングが大人向けなら、こっちは子ども向け
・作り方が子どもたちにもわかりやすいようになっている
 子どもたちは、「ひとりでできるもん」が子ども、それも幼稚園~小学校低学年をターゲットとしていることに気づいた。

 ここで、子どもたちに自作ビデオを見せる。そこには、本校の1年生担任の5年生への「お願い」が写っていた。「1年生に野菜嫌いな子がいる。ぜひ好きになるような料理番組を作ってほしい」というものである。
 これで今回の単元の目的が明確化した。「1年生のために料理番組を作る」「イメージは『ひとりでできるもん』」。子どもたちも「1年生にもわかりやすい番組をがんばって作りたい」「番組作りは初めてなのでとても楽しみ」と
いう感想を持った。
 この後、班ごとに撮影する場面を選ぶ。Aチーム「作る前の場面」「作っている場面」「食べる場面」を3つの班が行う。Bチームも同様である。

■ 2~3時間目・計画段階で壁にぶつかる

 撮影の計画を立て練習をする時間である。
 次の流れで行う。

・シナリオの「大まかな流れ」を決める
・「自分たちの工夫」を一つ決める
・役割分担(ディレクター、カメラマン、アシスタント、出演者)をする
・シナリオを作る
・練習や試しの撮影をする

 このうち「大まかな流れ」から「シナリオ作り」まではスムーズに行った。「工夫はキャラクターを使う。そのキャラクターがおなかをすかして倒れそう。何か食べたいと言うシーン。」といった感じである。

 しかしいざ練習と試しの撮影となると子どもたちは壁にぶつかった。
 まず、「構成」の問題である。3つのチームが一つのお話を作る。本来であれば、全体の流れがあるはずである。しかし今回は「短時間で」という制約があるので、全体の流れは私自身多少ちぐはぐでもいいと思っていた。むしろその方が振り返りの時に「構成」の素材になると考えたのである。
 ところが「食べる場面」の班が「前の2班の話に合わせないと変」と言ってきた。
 子どもたちから「構成」を問題にしてきたのである。これは受けざるを得ない。
 また試しの撮影では、「声がよく聞こえない」「キャラクターが画面の中で小さく写ってしまう」「人物がはみ出して撮影されている」といった技術的なミスが出てきた。子どもたちも簡単に考えていた撮影の難しさを改めて感じた。

■ 4~5時間目・いざ撮影

 子どもたちがぶつかった壁。授業時間はもうとれないので、休み時間や家でシナリオを再構成したり、ビデオ撮影の練習を行ったりして本番を迎えた。
 大まかな流れは次の通りである。(Aチームの例)

1 食べる前(1班)
 おなかが減っているキャラクターが倒れる・校庭で撮影
2 作る(2班)
 トマトとブロッコリーのサラダを歌・踊りつきで作る
3 食べる(3班)
 キャラクターと子どもが食べて元気になる

 ここでも子どもたちはトラブルにぶつかる。「逆光のために人物が暗く写ってしまう」「野菜を切っているシーンをずっと撮影をしているため、時間がかかってしまう」「野菜サラダのアップがうまくいかない」・・・等。
 しかし、それぞれ、「場所を変えたらいい」「途中でカットしよう」「ここはカメラを三脚からはずして近づいて撮影しよう」というように、自分たちで話し合いをして解決をしていった。
 このように子どもたちは「効果的な撮影方法」を体験から学んだ。それは同時に「メディアの見方」も学んだことにもなったのである。
 私が嬉しかったのは、子どもたちの意欲とたくましさである。失敗をしても子どもたちが納得いくまで撮り直しをする。ふだん小さな声のディレクター役の子が、「5・4・3・・・」と大声で指示をする。子どもたちの新たな一面を見た思いであった。
 この撮影当日の授業は、日本テレビの方や千葉大学の学生さん方が参観されたのであるが、「子どもたちがはじめての番組づくりにもかかわらず、実際に撮影を体験しながら成長していく、テレビの裏側に気付いていく姿をはっきりと感じました。」という感想をいただいた。

■ 子どもたちの学び

 子どもたちは今回の番組作りで何を学んだのか。感想を紹介する。
・番組作りは「かんたん」と思っていたけどむずかしかったです。
・何度も失敗したけど、自分たちで話し合って成功したのがよかったです。
・何回も練習したかいがありました。それにめずらしい体験ができた総合でした。1年生が野菜好きになればいいなと思います。
 このような感想が大部分であるが、中にはメディアリテラシー的な見方が深まった感想もあった。

・今まで何げなくテレビを見ていたけど、工夫をしていることがわかった。
・今度からテレビを見る時には撮影のしかたを少し考えて見てみたいと思いま
 した。

 このような感想の積み重ねが子どもたちのメディアの見方を育てることであろう。
 今週子どもたちは実際に1年生に番組を見せる。これもまた貴重な体験になることであろう。

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