私の教材開発物語第15回・16回
【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です】
連載 私の教材開発物語 第15回
初めてのインターネット学習
■ おすすめ書籍「インターネットで総合学習」全5巻
今春(2002年)、「インターネットで総合学習 すぐに役立つ実践アイデア集」全5巻(あかね書房)が発刊された。
これは、インターネットを活用した総合学習の進め方をわかりやすく解説した本である。国際理解や環境、福祉など、総合学習の主要テーマ別に授業アイデアを豊富に掲載されており、子供たちの学習の手引き書としてすぐに活用できるものである。もちろん、教師自身の総合の授業プランの構想でも役立つ。
学校図書館にぜひ常備しておきたいシリーズである。
昨年度、私はこの本の執筆に携わった。それまで、インターネットを活用した授業をそれほど意識していなかった私にとっては、実践および執筆を通じて多くのことを学ばせてもらった。(ちなみに、本メールマガジンの編集長・蔵満逸司氏もこの本の執筆者である。)
■ 不便な環境を逆手にとる
この本の執筆依頼を受けた時点で私の勤務校(前任校・宮古市立高浜小学校)には、「パソコンルーム」はなかった。しかも、インターネットに接続しているのは1台限り。パソコン自体も他に2台しかない。「インターネットで総合学習」をするには不便な環境であった。(子供たちも本格的なインターネット学習は経験していない。)
しかし、時代が進んでいるのに「不便な環境だから」と言って、逃げているわけにはいかない。執筆依頼を機会に、何とか、この環境の中でもできるインターネット学習ができないかと考えた。
考えることができたのは次の2点である。
1 「ホームページの検索」よりも「ホームページの見方」に重点を置いたインターネット学習をする
2 「パソコンルーム」ではないメリットを生かす
子供たちにとっては、本格的にインターネットを活用する学習は初めてである。そこで、検索の方法を教え、実際に検索させるとなると本校のパソコン環境からすると非効率的である。そこで、あらかじめ調べるホームページとサイトを限定して、ホームページの見方を学ばせる方が子供たちにとっては実りがある。それならば学校のパソコンの他に職員の個人パソコンも活用できる。
また、一般的なパソコンルームは「パソコンのみ」に集中するには便利であるが、子供たちが他の道具(百科事典、国語辞典等)を用いて調べたり、画用紙に書いたりする時には不便である。
パソコンを調べる道具の一つと考えれば、他の調べる道具がある図書室でインターネット学習をするのが一番である。わからない言葉をすぐに調べることができる。書く活動のときにも広いスペースがあり便利である。これは、逆にパソコンルームではないメリットではないかと考えた。そこで、図書室でインターネットの学習を進めることにした。
■ 単元「調べよう、伝えよう!私たち、ボランティア・ ネット調査隊」
今回取り組んだのは、次のような学習である。
1 単元名 「調べよう、伝えよう!私たち、ボランティア・ネット調査隊」(5年生対象・全12時間)
2 ねらい
この単元は、「ボランティア」についてインターネットで調べることを目的としている。
「ボランティア」については、子供たちは断片的な知識があるもの具体的、系統的な知識については少ない。
そこで、様々なボランティアについて子供たち自らがインターネットを活用して、調べ活動をするのが本単元のねらいである。幸い、ネット上には数多くのボランティアに関わるホームページが存在する。その中でもハンディを持つ人に関わるボランティア活動のホームページを、本単元では有効に活用させてボランティアに関わる学びを深めさせたい。
3 学習の流れ
(1)今までの経験から、ハンディを持つ人に関わるボランティアに関する興味を持つ(1時間)
(2)ボランティアについてのホームページを閲覧し、興味を深める(1時間)
(3)「ボランティア・ネット調査隊」を発足させ、グループで調べたい課題を決める。(1時間)
★点字ブロック探偵団
★共用品探偵団
★パラリンピック探偵団
★盲導犬探偵団
(4)自分たちの課題をホームページで調べ、工夫してまとめる(4時間)
(5)調べた内容を発表し、交流しあう。(1時間)
(6)自分たちにできるハンディキャップに関わるボランティアを実行する計画を立て、実行する。(3時間)
(7)今回の学習で学んだことを考える(1時間)
■ 実際の授業
この単元では、主として2回にわたりホームページを活用している。
1回目は全員一斉にいろいろなホームページを閲覧する。手話、共用品、パラリンピック、盲導犬に関するホームページである。教師が事前に選んでおいたサイトを次々と見せる。これによって、子供たちはボランティアについての興味を高め、また知識も広げることができた。
そして2回目がメインの調べ学習である。先の4つの課題を、ホームページで調べる。事前にサイトを指定しておいたことにより、教師自身も指導の見通しを持つことができる。
しかし、それだけではホームページを活用した調べ学習は不十分である。この時には、次の3つの作戦を考えた。
1 事前に調べる視点の確認を行う
2 調べた内容についてキーワードを作らせる
3 ただ単に調べたことをまとめるだけではなく、ホームページの情報から「発表のための工夫点」を考えさせる
1の視点の確認とは、たとえば、点字ブロック探偵団であれば、「点字ブロックはどれくらい役立つか」「点字ブロックを広めるためのボランティアにはどんなものがあるか」といったことである。
この視点の確認は重要であった。一つのホームページにも多くのサイトがある。この視点に応じて、必要な情報を子供たちは取捨選択をすることができた。
キーワードにまとめさせるのは、課題を解決するための方向性を絞り込ませることができた。
そして、「発表のための工夫点」では次のようなものが出てきた。
★点字ブロック探偵団→実際に町で点字ブロックを調べる。
★共用品探偵団→共用品を集め実物を提示。不便さを劇にする。
★パラリンピック探偵団→選手と同じように100mを走ってみる(目隠しで)。
★盲導犬探偵団→盲導犬を知っている人に電話やメールで尋ねる。
これらはホームページの情報から、子供たちが触発され考えたものである。
また、図書室での調べ学習は実に効果的であった。
ホームページを見る時に、難解語句が出てくる場合がある。図書室であれば、関連図書や事典ですぐに調べることができる。また、パソコン画面を見ながら画用紙に書くスペースも十分にある。「逆手にとった効果あり」という感じであった。
■ どのような環境であっても
この学習で、最終的には子供たちは、自分たちにできるボランティアを行うことができた。
子供たちにとって初めてのインターネット学習は、価値があったと思う。
同時に、インターネット環境が不便であっても、工夫することによって子供たちにとって意味がある学習が可能である。そう感じた。
-----
連載 私の教材開発物語 第16回
「やはり見学させたい!地域の工場」
■ まさに「百聞は一見に如かず」
「おはようございます!」と工場で働いている人たちが子供たちに声をかける。あわてて、「おはようございます」と挨拶を返す子供たち。いろいろな社会科見学に行くが、こんなにあいさつをされたのは私自身初めてである。
見学担当の方に聞いたら、「よりよい職場」「働きがいのある職場」にするために、あいさつを励行されているということ。「QCサークルによる提案活動」「モラールの向上活動」も盛んだという説明を受けた。
実際に製品を作る機械を見る。コネクタは小さな部品であるが、その製品作りのために大型の機械がどんどん動いている。
「こんなに大きな機械でできているんだ!」と子供たち。
そうかと思えば、人が細かい部品の検査をしている。不良品の割合の低さに子供たちは驚いていた。地元宮古の工場見学の一コマ。まさに「百聞は一見に如かず」。
必死にメモをする子供たちの姿がそこにあった。
■ どんな部品工場を選ぶか
前任校の宮古市立高浜小学校の5年生を担任していた時のことである。
社会の教科書の工業産業は自動車工場の例が出されている。
岩手にも自動車工場はあるが、宮古からバスで片道3時間もかかる。自動車の部品工場にしても似たようなものだ。
今はインターネットで「バーチャル工場見学」というサイトもある。それを使って学習を進めようかとも考えた。しかしながら、やはり本物を見せたい。本物でなければわからないこともあるはずだ。
では、地元宮古にはどんな工場があるのか。宮古は三陸海岸の漁業の町である。水産業に関わる工場なら多いが、工業関係は少ない。同僚に聞いても「いいものがないので、工場見学をしていない」とのこと。(私自身は宮古に住んで3年目。)他の学校の社会科教師に聞いても、どうもピンと来ない。それどころか、この不況で倒産が相次いでいるとのことであった。
ここで頼りになるのは、インターネット検索である。地元宮古のことであっても、浅い情報ならインターネットで調べた方が多くのものを集めることができる。その中で見つけたのが「東北ヒロセ電機」である。ゲーム機や携帯電話のコネクタを中心に作る工場である。
この工場名をキーワードに検索をする。「業績好調」の新聞記事。親会社のヒロセ電機のホームページに掲載されている従業員の声。どちらも「宮古の工場」とは思われなかった。「これだ!」と思わず、パソコンの前で呟いた。
■ 事前のフィールドワーク
すぐに連絡をとり、工場を見学させてもらう。すぐに目につく看板「目指せ、世界一の工場」。担当の方からいろいろな話を聞かせてもらう。
□業績好調で、どんどん働く人が増えていること。
□部品はいったん横浜に送られ、海外にも輸出されているということ。
□働きがいのある会社にするために、仕事後のクラブ活動が盛んなこと。
□自分たちの技術が世の中のためになっているという誇りを持っているという
こと。
□宮古は首都圏から遠い(600km離れている)が、逆にそれが競合相手の
いない結果となり、労働力確保につながっているということ。
「宮古にも、このような工場があったのだ」という思いであった。この私が感じた思いを、子供たちにも伝えたい。きっと子供たちも共感するはずだ。そう考えた。
実際に見せてもらった製品を借り、自分の教材開発までの素材をフル活用して授業を組み立てた。
■ 実際の授業
☆1時間目(見学の事前学習)の主な発問・指示
1 今は「不況」と言われています。どういう意味ですか。
2 「東北ヒロセ電機」は宮古市赤前にある工場です。(「業績好調」という新聞記事を示して)気づいたことを発表しましょう。
3 東北ヒロセ電機にはスローガンがあります。「目指せ、( )一の工場」です。「何一」だと思いますか。
4 何を作っているのか説明をします。(工場から借りてきたコネクタの実物を見せる。)
5 このような小さなものを作る時に難しいと思うのは何ですか。
6 これらのコネクタの部品はどこに送られていると思いますか。
7 不況でもこのような工場が宮古にあります。次の時間に見学をします。聞きたいことを書きなさい。
「目指せ、世界一の工場」というスローガン、時代の先端を行く携帯電話の部品、海外に輸出という事実に子供たちは一気に興味を示した。
☆2~3時間目(見学学習)
冒頭に書いたように、子供たちは工場の様子を目の当たりにして、数多くの発見をしていた。
☆4時間目(事後学習)の主な発問・指示
1 工場見学で、君たちが見つけた東北ヒロセ電機が元気な秘密を発表しなさい。
2 わざわざ宮古に工場を作った理由は何だと思いますか。
3 このような工場が宮古にあることをどう思いますか。
最後の発問で子供たちは、「この近くに、こんな優秀な工場があると思わなかった。すごい。」「まだ、県内一ではないけど、やがて県内一になって、スローガン通り世界一になってほしい。」という感想を持った。
■ 教師の役目
日本のもの作りの技術のすばらしさは世界的に有名である。
ぜひ日本一」「都道府県一」という技術を持つ工場を、子供たちに見学をさせたい。本物にしかない事実に圧倒されるはずである。
しかし、実際には時間的・物理的な制約上それは難しい場合が多いであろう。ただ、どの地域でも、すばらしい工夫や努力をしている工場があるはずである。
それを探し出すのが教師の役目であろう。その対象を見つけ、フィールドワークをする過程で、その工場を対象としたオリジナルな授業プランは決まっていく。
事実を学んだ子供たちは、「自分たちのまちにもこのような工場があるのだ」という共感を持つようになるのである。
The comments to this entry are closed.
Comments