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2016.07.30

私の教材開発物語第29回・第30回

【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です】

連載 私の教材開発物語 第29回(2003年)

  「家庭でも音楽でも地域のよさ・日本のよさを伝える」
 
■ 子どもたちに「誇り」を持たせる

 いろいろな学習をする中で、子どもたちに「家族のよさ・地域のよさ・日本のよさ」を感じ取らせることが大切だと考えている。それらを知ることにより、「家族っていいな」「自分たちの地域や国にはこんなすばらしいことがあるん
だ」といった「誇り」を持つであろう。
 国際化の波が教育界にも押し寄せている。総合的な学習で国際理解教育も盛んである。こういう時代だからこそ、「自分の家族のよさ」「自分の地域のよさ」「自分の国のよさ」を堂々と語ることができる子供たちに育ってほしいと願う。
 そこで私は「地域のよさ・日本のよさを伝える授業」というホームページを開いている。社会科や総合の実践が多いのであるが、いろいろな教科にこのテーマは通用するものだと感じている。今回は家庭科と音楽の紹介である。

■ 例1 家庭科5年「家族から『家庭での仕事のこつ』を学ぶ」

 5年生最初の単元は「仕事、任せて大作戦」であった。家庭での仕事について考え、実際に自分ができる仕事について実践してみるというものである。日常でお手伝いをしている子がほとんどであったが、そのお手伝い以外に1週間、家の仕事を行うというものである。「玄関そうじ」「食事作り」「洗濯物の後片付け」等、子どもたちは自分の興味のあるテーマを選んだ。
 自分が選んだ仕事については、ふだんしているわけではないので、当然わからないところが出てくる。そこで、次のように指示をした。
 家族から「家庭での仕事のこつ」を聞きなさい。それをあとで「5年生・家族の仕事百科」にまとめます。
 家庭での仕事については、やはり母親や祖母はプロである。子どもたちは1週間、家の人から学んだことをもとに実践をした。そして、今まで気付かなかった「家庭での仕事のこつ」を各自がつかんだ。
 それを表に一人一人まとめた。全員分を閉じると、「5年生・家族の仕事百科」の完成である。読んでみるとなかなかおもしろい。
 お家の人へのお礼の意味もあって、授業参観の冒頭の時間を使い、その「仕事のこつ20秒スピーチ」を行った。
 子どもたちの一人一人の仕事での奮闘ぶりや実際に道具を持ってきてこつを紹介する度に、大きくうなずいたり、思わず拍手をしたりする家の人もいた。
いい場面であった。
 単元終了での感想では、「お母さんから、仕事のこつを学んでもの知りになることができ、よかった」といったことが多く出てきた。
 家庭での仕事はやはり「家庭での仕事のプロに」に聞くのは一番、ということを子どもたちは実感した。

■ 例2 家庭科5年「おせち料理の意味は?」

 日本の伝統行事の中でも「おせち料理」は、子どもたちになじみの深いものである。
 しかし、その料理自体の知識はあまり家庭で話されることがないという。そこで、2学期最後の家庭科の最初の時間を使い、「おせち料理の意味は?」という学習をした。(15分ほど)

1 おせち料理にはどんなものが入っていますか
 (黒豆、伊勢海老、田作り、かまぼこ・・・等いろいろと出てくる。「あまり食べないといった」声も聞こえる。)

2 実は一つ一つの料理にはいろいろな願いがこめられています。
・黒豆の「まめ」には、まめに「  」という思いがあります。「 」には何が入るでしょうか。(すぐに「働く」という言葉が出てくる。)そうですね。
健康に働けることは今も昔も大切なことです。さらに関東地方では、「しわがよるま長生きできるように」ということで、黒豆をしわがよるまで煮込む地域もあるそうです。
・数の子も縁起がよいとされています。何かに恵まれるからです(子どもという反応)。それだけではなく、「よいことに数々恵まれる」とも言われています。
・栗きんとんも縁起のよいものです。漢字では、「栗金団」と書きます。「金」がたまるとされています。
・ かまぼこは、どのような点が縁起いいのでしょうか(色、紅白という反応)。赤色は難しいことは退ける、白は清らかなことを表しています。

3 おせち料理はこのように一つ一つ願いが込められているのです。感想を発表しましょう。

★子供たちの感想
・私が知らなかったお正月のことがわかってうれしいです。子宝に恵まれるように、私はお正月に数の子を食べようと思いました。
・正月は今まで何となくやってきたけど、こうして学習してみると由来がたくさんあることがわかりました。
・大掃除は何となくめんどうくさいと思っていたけれど、必要があったことがわかりました。
・ぼくはおせち料理をあまり食べないから今度は食べるようにしたいです。

 感想からもわかるように、子どもたちは改めて「おせち料理」に関する意味を知ることができた。
 このように伝統行事やならわしで衣食住に関わることはけっこう多い。「お月見」「七五三の晴れ着」もそうである。それに関わる学習を月に一回ぐらい10分程度で行う。子どもたちは今まで知らなかったことが多いので、喜んで話を聞く。私自身もこのようなことを伝えていくことの大切さを感じる。

■ 例3 音楽・「滝廉太郎の曲を味わおう」

 音楽でも日本の曲のよさを味わうことができる。5年生で行った授業を紹介する。
(学級通信「カルチェ・ラタン」67号・平成15年9月12日発行より)

 昨日、音楽で滝廉太郎の曲を学習しました。「荒城の月」「花」といった大人にとってはなじみ深い曲です。ところが、子供たちにとっては、「タキレンタロウ?誰?」「音楽室に写真があるよ」といった程度のとらえでした。
 そこで、「何とか滝廉太郎のよさを味わわせたい」と考え、次のように授業をしました。
 最初に、滝廉太郎について私が調べたことを子どもたちに伝えました。

・日本の音楽史上有名な音楽家であり、その曲が100年以上伝えられていること・その証拠に滝廉太郎記念館が二つあること
・教科書にあるものだけではなく、他にも有名な曲を作っていること

 この事実の紹介によって、子供たちは「日本ではかなり有名な人」と理解しました。
 さて、かんじんの曲です。「荒城の月」「箱根八里」「花」と、一曲、一曲じっくりと聞かせました。「荒城の月」「箱根八里」はほとんどの子どもたちにとって初めの曲でしたが、「花」の前奏が流れた時には「ああ、知っている」「お姉ちゃんが歌っていた」という声も出てきました。
 「一言で言うと、どんな感じがしますか。」と聞くと、子どもたちから次のような反応が返ってきました。

■「荒城の月」・・・悲しい感じがする、男の声と女の声が合っている、さびしい感じがする
■「箱根八里」・・・はずんでいる、力強い、男の人のいろいろなパートがまじりあっている、がんばって山に行くぞという感じ
■「花」・・・・・・美しい、流れるようだ

 滝廉太郎が、実にいろいろなタイプの曲を作っていることがわかります。子どもたちも「ちがった雰囲気の曲を次々と作っているなんてすごいなあ」と感じたようです。
 ちなみに、「3つの曲の中でどれが一番好きですか」と聞くと、見事に3つとも同じくらいの割合で手が挙がりました。
 この授業で、子どもたちの滝廉太郎についての見方は深まりました。次のような感想がそれを物語っています。
・きれいな歌を作る人だなあと思った。それに、いろいろな曲を作るなんてすごいです。
・すばらしい人なんだなあと思いました。滝廉太郎さんはいい歌を作っているなと思いました。ほかの曲も聞いてみたいです。
 おまけで「お正月(もう、いくつ寝ると~の曲です)」も聞かせました。これも滝廉太郎の作曲です。
 今後何からかの機会に滝廉太郎に接することがあると思います。今回の授業のことを、その時に少しでも思い出せば嬉しいと思います。

■ 「家庭・地域・日本」のよさを伝えることのメリット

 「家族のよさ・地域のよさ・日本のよさ」を伝える視点を持つことによって家庭科の場合であれば次のようなメリットがあると感じている。

・家族を含め、その道の専門家から直接学ぶことができるので、子供たちの学習意欲が高まる。同時に、人から学ぶことは生き方が学ぶことにつながる。
・家族・地域の一員としての自覚や誇りが高まる。
・学習する対象が身近なことが多く、今までの生活経験の中で得た知識が活用できる。

 そのような教材開発をするためには、まず教師自身が「家族のよさ・地域のよさ・日本のよさ」を学ぶことが大切と考える。そして、教師自身が「おもしろい」「感動した」というものは、子供たちもやはり興味を持つ。そのような
内容をたくさん蓄えることの必要性を感じる。

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連載 私の教材開発物語 第30回

    メディアをミックスさせる
  ~NHK学校放送番組「おこめ」をメインに~
 
■ NHK教育の学校放送番組

 皆さんはNHK教育の学校放送番組を、どれぐらい授業で視聴させているだろうか。また、学校放送番組にどのようなイメージを持っているだろうか。

 数年前まで、「学習のまとめとして見せるもの」「実際に見学に行けないものを見せるもの」といったように学習の補完的な形でしか私自身見せたことがなかった。
 それが変わったのは、NHK学校放送番組「体験!メディアのABC」の番組協力員になってからである。この番組は、小学校高学年を対象としたメディアリテラシー学習のためのものである。教科の番組の補完物ではない。
番組そのものが学習のメインになる。そして、番組をもとに授業を構成するようになった。
 今年は同じくNHKの「おこめ」のプロジェクトチームに入っている。

■ おこめ学習と学校放送番組「おこめ」

 そもそも「おこめ」をテーマにするメリットは何か。次のようなことが考えられる。
・本校の子どもたちは米を主食としており、全員に関わり合いがあり興味が持ちやすいこと
・5年生の社会科の学習で稲作農家の事例を学び、教科と関連づけた学習ができること(現在5年生担任)
・「健康」「国際理解」「環境」等総合的な学習の現代的な課題のテーマに結び付けやすいこと
・実際に稲を育てる過程でゲストティーチャーから学ぶことが多いこと
 これらのメリットから、幅広い学習が展開可能ということがわかる。
 そしてさらにこのおこめ学習を充実させるものがNHK学校放送番組の「おこめ」である。「おこめ」は小学校高学年向けの総合的な学習の時間を対象とした番組である。内容は、お米の育て方だけではなく「祭り」「世界のこめ作り」等、幅広いものとなっている。番組自体も思わず見入ってしまう映像、問題提起の部分等を取り入れ、子どもたちの興味・関心を高めるような内容になっている。
 私の学級では番組を定期的に視聴している。同時に学習の展開に応じて、部分的にホームページ上で視聴をしている。

■ テレビ・クリップ・掲示板

 そのNHK「おこめ」のホームページにはいくつかの特徴的な機能がある。

★テレビ→番組そのものをホームページ上で見ることができる。今までは一斉にしか見ることができなかったが、このデジタル教材により、子どもたちが興味のある部分・調査に必要な部分を個別的に視聴できるようになった。個別的な調べ学習の時に役立つ。

★クリップ→1~3分の動画がたくさん入った映像百科事典である。子どもたちが個々の課題を追究する時に視覚的に学ぶことができる。そのコンテンツも200本以上あり、子どもたちの課題に対応できるものになっている。

★けいじばん→子どもたちが番組の感想を交換したり、クラスの取り組みを発表したりするために用意されたものである。つまり、番組をきっかけにした交流学習をこの掲示板を使って行うことができる。

 他にもホームページには機能があるが、本校5年生が主として活用をしているのがこの3つである。個別的な課題追究の時には、「テレビ」「クリップ」を繰り返し活用している。また、同じおこめ学習をしている他県の3校とは掲
示板を活用して交流をしている。

■ メディアをミックスさせる

 様々なデジタル教材があるということは、それらをミックスさせた取り組みが可能だということである。
 番組の第4回は「農薬を使わないこめ作り」、第5回は「農薬なしではやっていけない!」である。対立する内容であり、農薬反対派と農薬賛成派のそれぞれの立場からの番組である。子どもたちにどちらの番組も視聴させ、「あなたは農薬を使うことに賛成ですか?反対ですか?」と投げかけた。そして討論をすることを告げ、子どもたちにクリップ教材で理論補強をするように促した。興味づけと調べ学習の相乗効果で討論は深まった。

□農薬賛成派
・適度な農薬を使っておいしいお米を作ればいい。
・雑草とか虫が苗を悪くしてしまうから農薬を使ったほうがいい。
・使う量や時期に気をつければよいと思う。
・無農薬だと病気がふえてしまうし、農薬を使えば何とかなるから。
・そうしなければお米も食べられないし、農家の人もお金がなくてくらしていけなくなるから。
□農薬反対派
・研究を多くすれば、無農薬のお米もどんどんできると思う。
・人の健康に害がある場合がでるかもしれないから。
・安全でいい米がほしいから。
・世話がたいへんでも、農薬を使って稲に害があったら意味がない。
・無農薬でがんばっている人もいるので、農薬を使わない方がいい。

 「番組視聴」→「クリップ教材」→「実際の討論」というように複数の教材をミックスさせることにより、一つの教材にはできない複合効果が生まれたのである。

■ 教師もインターネットを活用して情報交換

 現在4校で交流学習を行っている。と言っても子ども同士に任せているわけではない。教師同士が連絡を密に取り合い、何らかの仕掛けをしておくことが必要である。そこで4校の担任を中心としたメーリングリストを作って情報交換をしている。交流のしかたについて意見を交換をしたり、教師の目から見た子どもたちの様子を気軽に話し合ったりと有意義な情報交換になっている。
 教師同士が日常的に交流をしていると、年3回のプロジェクト会議で会った時にも気軽に話ができる。まさにメーリングリスト効果である。
 また、掲示板の子どもたち一人一人の書き込みが担任に自動的に送られてくる機能がある。教師がホームページ上の子どもたちの書き込みを記録する手間が省ける。同時にそれらを整理することによって、子どもたち一人一人の学びの記録が簡単にできる。それらを継続することにより、一人一人の変容を見取ることができる。
 このように、教師がインターネットをうまく活用することは、子どもたちによりよい教育効果をもたらすことになる。

■ 稲刈り後は・・・

 メインの「おこめ」の番組やホームページを中心に述べてきた。
 かんじんのお米作りももちろん行っている。5月にバケツ稲に植え、定期的に調べ活動を行い、一週間前に稲刈りを行った。学習の過程で専門家をゲストティーチャーに招き、ワークショップと質問を中心とした授業を行った。そのような実体験があったからこそ、様々なメディアの学習も生きてきたのだと思う。
 今後は、後期の活動に向けて4校交流を活発にすることを目指している。有機栽培、農業の祭り等のテーマを現在共同で学習を進めている。最終的には共同で学習したことを各学校のホームページにまとめて発表する予定である。

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