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2016.07.31

私の教材開発物語第31回

【ホームページ移行のためのリバイバル掲載です】

連載 私の教材開発物語 第31回(2003年)

   コンビニエンスストアは「便利な」教材

■ 地域によって教材開発がしにくい5年生の社会

 現在5年生の担任である。社会科の教科書を見ると、農業・水産業・自動車工業・情報関連産業等が掲載されている。いわば現実にある産業が対象となっている。
 当然、実際に見学をしたり、その仕事に携わっている人に話を聞いたりすることが大切と考える。本校はその点では恵まれている。水沢は古くから米作りが盛んな土地である。隣町に関東自動車工業の岩手工場があり、トヨタの車を作っている。また小さいながらもケーブルテレビ局がある。水産業以外の学習では見学も直接話を聞くこともできたのである。
 しかし、三陸海岸沿いにあった前任校は違っていた。水産業はもちろん大丈夫だが、他の学習では教材開発をしながら、もっといろいろな産業があったらなあ・・・と思ったものである。

■ コンビニエンスストアは教材開発にとっても「便利」

 その点では、現在学習をしているコンビニエンスストア(「情報を役立てる人々」)は、とてもいい教材である。

・コンビニエンスストアは全国津々浦々に存在する。子どもたちも何度も使った経験がある。
・教師自身が取材しやすい。オリジナルの資料・ビデオを提示できる。
・学区にあるのなら見学もすぐに可能である。ゲストティーチャーとして教室に店長さんを招くこともできる。

 他の単元ではこのように簡単にはいかない。以前、同僚から、「社会科の先生は大変だね。授業の前にあちこち行って資料を集め、時間をかけて見学に行って・・・。」と言われたことがあった。私自身はそのことが楽しみなのであるが、多くの教師にとっては社会科の教材開発が「大変だ」と感じていることがわかる。その点コンビニエンスストアはすぐに教材開発できる。まさに「便利な」教材である。

■ 授業前の教材研究

 単元に入る前に、子どもたちがよく利用するコンビニエンスストアにさっそく取材に行く。教科書の内容にあるのは、「バーコードで商品を管理している」ことと「気象情報を商品の仕入れに生かしている」ことの二つが中心である。
このうちバーコードは見当がつくが、気象情報の利用については見たことがなかった。
 店長さんにお話すると、すぐに事務室に案内してもらう。パソコンの画面から気象情報が目に入ってきた。その気象情報は実に細かいものだった。

・3時間ごとの天候・降水確率・気温予測がある。
・それらの3時間ごとの予測が2日後まで行われている。
・風速・湿度・不快指数が1週間分予測されている。
・「体感」という項目があり、「快適」「暖かい」というような内容で表示されている。

 最近のテレビの気象情報もかなり細かいところまで出されているが、ここまで詳しくはない。しかもこれはご当地のみのピンポイント情報である。「やはり寒い日には温かい飲み物・食べ物を多く入れますし、暖かい日にはその逆です。実際にこの気象情報は役立ちますよ。」という話にうなずくことばかりだった。

 その他にも、バーコードの話、イベント情報から弁当を増やす話、コンピュータによるチケット予約の話等、授業のヒントになる話をいくつも聞くことができた。「やはり取材は楽しい」と感じた。
 さて、今回の授業のためにぜひ欲しいものがあった。「もの(資料)」と「ひと」である。活用している様子をビデオに撮らせてもらっただけではなく、実際の気象情報をプリントアウトしたものをいただくことができた。さらに、実
際の授業にも店長さんがゲストティーチャーとして来校していただけることになった。

■ 気象情報を読み取る

 実際のコンビニエンスストアの授業。気象情報を扱うのは単元の3時間目。課題は「コンビニエンスストアでは買った気象情報をどのように役立てているのだろうか」というものである。
 さっそく、いただいた気象情報の資料を子どもたちに提示する。5年生にとってはやや難しいものであるが、題や項目を指で確認したあとに子どもたちに「この気象情報でわかることを書きなさい。また自分の解釈も付け加えなさい。」と指示をする。

・3時間ごとの天気がわかる。便利である。
・最高気温と最低気温がわかる。飲み物を出す時に役立てていると思う。
・風速があるけど、あまり仕事に関係ないのではないか。
・不快指数がある。でも何のことか分からない。
・降水確率を見て、傘が売れると考えていると思う。

 様々な発表が出てきたが、個別な情報に目ばかり行っており、コンビニエンスストアの気象情報の特色が絞りきれない。そこで、次の発問を行った。「テレビの気象情報との違いは、ずばり何ですか?」
 この発問によって子どもたちは改めてコンビニエンスストアの気象情報の特色について考えた。

・自分たちが住んでいるところの気象情報がわかる。
・商品の売れ行きに関係する情報が多い。
・インターネット上にあるのでいつでも見られる。情報が欲しい時に手に入る。

 一つの発問により、子どもたちの見方も広まったのである。

■ 店長さん、制服で登場

 この時間、店長さんをゲストティーチャーとして招いていた。目的は二つである。

・子どもたちが「気象情報をどのように役立てているのか」という課題について、考えたことが正しいかどうか答えていただく。
・気象情報の他に情報を活用している例を紹介していただく。

 ふだんゲストティーチャーを招いた時には、質問をメインに授業を組み立てるのであるが、このような目的であれば時間は短い。ほんの7,8分である。しかもその中で授業に関わる重要な話を聞くならば、「教師の聞き取り」という形がベストである。
 この時のゲストティーチャーの登場は一工夫をした。研究授業だったので、子どもたちの周囲には教師がたくさん参観をしていた。子どもたちはゲストティーチャーの存在も知らない。課題に対して子どもたちの考えが一通り出た後で、「この考えが正しいかどうかは誰に聞くのが一番だろう?」と聞いたら、当然「コンビニエンスストアの人!」という答えが返ってくる。
 そこで「実は教室に来ています!」と言って、その場でコンビニエンスストアの制服を着ていただいた。すぐに子どもたちから、「オー!」という声があがった。
 さっそく教師がインタビュー。

「気象情報を商品の仕入れに役立てているということを子どもたちが考えましたが、本当ですか。」
「はい、そうです。毎日こまめにチェックをして役立てています。」
「どのように役立てているのですか。」
「ちょうど今は秋なので、飲み物や食べ物は温かいものや冷たいものの両方が売れます。その日の気温に応じて考えています。」
「たとえば、どんな商品ですか?」

 このようなテンポでやり取りが進む。今回のようにゲストティーチャーへのインタビューするよさは、「目的に合った話をしていただけること」「ゲストティーチャー自身も何を話したらいいか安心して話せる」ことにある。短い時間
であったが、子どもたちに印象に残る話をしていただいた。

■ 「教材開発をしたい」という気になれば・・・

「今まで事前に自分で取材に行くことはあまりありませんでした。でも、今回の先生の授業を参観してやってみようという気になりました。」
 この授業を参観した他校の若い先生の感想である。
 事前の教材開発は時間がかかるし、面倒な点も多い。しかし、子どもたちの学びが大きくなるのも確かである。今回のコンビニエンスストアのような場合には、取材もしやすい。そのような例は各学年に何時間かあると思う。その例を紹介していくのも自分の役目かなとふと思った。

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